長編

□02.内に潜む暗い影。
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「ダメだな」

「は……っはぁ……っ」






銃の次はナイフ。
そう思った私は、ナイフの扱いを学ぼうとしたのだが……考えが甘かったかもしれない。

まず、自分の体力の無さには自分でも失望するレベルだった。

珍しく機嫌の良いメルルが、ナイフでの戦い方を教えてくれるというから警戒しつつも頼む事にしたのだが……。

こうして地面に倒され、蔑んだように見下ろされるのはもう何度目だろう。
最初はバカにするように笑っていたメルルも、ヒマ潰しにもならないと思ったらしく……険しい表情で私を見ている。

メルルは元軍人だと聞いた。

その教えが厳しいものになりそうだとは覚悟していたけれど。
ここまで来るとセンスの無さとか、基礎体力だとか、そういうのも原因なのかもしれない。



「もう一回……」




立ち上がり、再びナイフをかまえる私。
息を整えながらメルルを見据えるが、メルルは私に背を向けた。



「ちょっと!もう一回って言ってるでしょ!?」

「お嬢ちゃん、これ以上は無駄だ」

「メルル!!」


もう何回も、『お嬢ちゃん』
と呼ぶなと言っているのに…………!!

面倒くさそうに手をヒラヒラと振られたのと合わせて、私の中に沸々と怒りが湧いてくる。
だが、それはメルルも同じだったらしい。


「テメェの出来の悪さにはうんざりだ!」

「はぁっ!?」

「女だってことを差し引いてもどうしようもねぇひ弱さだって言ってんだ!年老いた犬のがまだマシだ!!」



…………酷い。
言いたくなるのもわかるけど、こっちは精一杯やっているのに。


かなり本気で落ち込んでいると、メルルは更に追い打ちをかけた。


「お嬢ちゃん、悪い事は言わねぇから諦めるんだな。おまえのその足の短さじゃリーチで負けてんだ。奴らに捕まりでもしたら終わりだ」

「…………」



そうなのだ。
メルルが言っている事は、私もひしひしと感じていた。

私は純の日本人だ。
身長は特別低いわけではないが、日本人の平均そのもの。
こちらの人間に比べれば、小さい。
メルルが男だからというのも関係無しに、こちらの女性と比べてもその差は歴然で。


いくら足を引き摺るようにして歩いているウォーカーが相手とはいえ……
上からのしかかって来られたら、私は簡単に押さえ付けられてしまう。

私にとって近接での戦闘は、難しいものだった。


「ダリル……」



それでも認めるのは悔しくて、私達の様子を見守っていたダリルに助け舟を期待するも、



「兄貴の言う事は正しい」



と、言い切られてしまった。




「ナイフが使えるようになれば、もっと二人に協力する事も出来るのに……」



そう呟けば、メルルが笑う気配。



「お嬢ちゃんには誰も救えねぇよ」


























何で今こんな事を思い出したのだろう。



ダリルがTドッグにボウガンを向けたのを見て、私は我に返った。


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