長編

□01.救出作戦。
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英語の成績はどちらかといえば悪い方。
勉強は嫌いだ。
自分の将来に役立つとは到底思えないものばかりだったし、況してや英語なんて……学校を卒業したら関わる事が無いと思っていた。


そんな私がアメリカに渡るきっかけになったのは、父の再婚。
高校を卒業するとすぐに、アメリカへの引っ越しが決まった。

こんなことならしっかり勉強しておくんだった……と後悔するも、時既に遅し。
英語を話す新しい母とは上手く打ち解けられず、新しい環境ですぐに自分らしさを発揮できるわけもなく……最初は友達も出来ず苦労した。



移住して数年が経ち、最近になってやっとこちらの生活にも慣れてきた。

多くは無いが、友達と呼べる仲間も出来て……休日は一緒に映画を見に行ったり、ひたすらお喋りしたり。
日本に居た時から好きだったテレビゲームに没頭したり、本を読んだり……そして平日になればアルバイト。


お金が溜まったら自立して家を出ようと、将来の事もなんとなくイメージ出来るようになってきて『さぁ、これからだ!』という時だった。


世界が、こんな状況になってしまったのは。




















「向こうは大丈夫かな……」

「あ?」




パチパチと爆ぜる炎を見つめながら呟くと、隣でリスを紐で括っていたダリルが顔を上げる。

ウォーカーが寄ってこないよう最小限の大きさの焚き火だが、他に光源の無い夜の森では、それでも十分な明るさになった。



「アトランタに向かったみんな、無事だといいんだけど」

「兄貴が居るんだ。問題ないだろ」

「その兄貴が問題の塊なんじゃない」

「おい、兄貴を悪く言うな」



私の言葉が気に入らなかったらしいダリルが鋭く睨んできたが、私は特に気にもとめず、悪気は無いのだと肩を竦めてみせた。
この二人きりの状況で雰囲気が険悪になっても面倒なので、一応『ごめん』とだけ言っておく。

ダリルもそれ以上は追求せず、再び仕留めたリスを括り始めた。






世界は変わってしまった。
一言で言えば、ホラー映画のような世界に。
死体が歩き回り、生きた人間を喰らう。
その死体は、ウォーカーと呼ばれた。

目の前で家族を失った私は数日
を一人で耐え抜いたが、その時は戦うすべを持たず、何度か死にそうな思いもした。
そんな時だった。
偶然にも、今隣に居るダリルと……その兄、メルルと出会ったのだ。
厳密に言うとメルルとはその少し前に知り合っていたのだが、私にとっては二度と思い出したくない出来事だった。


二人と行動を共にするようになって、正直助けられる事の方が多かったが……困った事もあった。
メルル・ディクソンという人間は、とにかく問題が多いのだ。

元軍人らしいが、暴力的でとにかく手が付けられない。
薬漬けだし、銃は振り回すし、日本で育った私には驚きを通り越してショックを受けるような事ばかり。


道中、まともな人間に出会えたら……この二人とはさっさと別れようと思っていたくらいだ。


でも、私はそうしなかった。



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