血狼

□1話
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 彼女をテレビで見るたびに、遠い存在になってしまったんだと感じる。
「まさかあの友梨奈ちゃんがアイドルとはなぁ……」
 普段はテレビなど見ずに静かな朝を好む父でさえ、彼女が朝の情報番組に出ようものなら早起きしてみる始末だ。最近なんて録画方法を知るために説明書を読み漁っていた。自分では気づいてないが、いわゆる熱狂的なファンというやつだ。
「父さん、行ってきます」
 息子が行ってきますのあいさつをしても、テレビに釘付けの父からは生返事しか返ってこない。
「お父さん! 和馬が行ってきますって言ってますよ」
 さすがに見かねた母が、台所から顔を出す。顔と一緒に包丁も覗かせているのは料理中だからだと信じたい。
「あ、あぁ。気を付けていってきなさい、和馬。帰ってきたら修行だぞ」
 心なしか顔面を蒼白にさせた父ができるだけ厳正な面持ちで言う。
「はい。父さん、母さん、行ってきます」
 苦笑いしながら玄関へ向かい、学校用かばんを持ち、靴を履く。戸をガラガラと開けると、朝の冷たい新鮮な空気が入ってきた。朝の鍛錬で温まった体を伸ばしてから、一歩を吹き出す。家から学校までは歩いて一時間。クールダウンにはちょうどいい距離だ。
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