DQW本編(短編・SS)

□Separation
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「あれはどうにかならぬのか、ブライ」
国王の私室、国王と魔導師ブライは茶を飲んでいた。
「大臣は優秀な男ではありますが、身分ありきでものを見る傾向がありますな。以前はそこまでに頑なではなかったのじゃが」
「何があやつをそうさせたのだ」
「ケヴィン、でしょうな」
「やはり、そうか」
「ケヴィンは非常に優秀な男じゃった。それゆえ、女性からは慕われ、男性からは疎まれた。ケヴィン本人はそのようなこと気にもせず、ひたすら神の言葉と向き合っておった。神のもとには人は全て同じ。金も石も変わらぬという思想のもと、誰に対しても優しい男じゃった・・優しすぎたんじゃよ」
「確かにな・・いい男だったよ、ケヴィンは。クリフトもあやつに、日に日に似てきておるな」
「左様。少し気の弱いところはあるが、非常に聡明な子どもじゃよ、クリフトは」
「しかしブライよ。確かにクリフトはこのまま城に置いておいてよいのか。その・・何とも、逆に気の毒な気がしてならぬのだ」
「そのことですがな、陛下。実は、クリフトの叔父、サランの司教のクラウスより、クリフトを引き取りたいとの話を内々に伺っております」
「ほう、クラウス、か」
「確かに、クリフトはクラウスの元で生活するのが一番あやつにとってもいいことだと思いますじゃ。しかし一つ、問題がありましてな」
「うむ。・・問題、か。なるほどな」
「そう、アリーナ姫さまですじゃ」
国王とブライは同時に溜息をついた。ブライが生姜茶のおかわりを国王にすすめる。
「アリーナもこの春に10歳になった・・“もう”10歳か、“まだ”10歳、か」
「とにかく姫さまは兄代わりのクリフトにずっとくっついていましたからな・・この謹慎の際も、どうしてクリフトは出てこないのかと怒っておいでじゃった」
「ふむ・・少し、“兄離れ”をさせるべきかもしれんな」
「左様で」
「クラウスの件は、クリフトさえよければ進めるがよかろう。アリーナの方は私が何とかするしかあるまい」
「苦労しますな、父親としては」
ブライは眉をひそめながらも、どこか楽しげですらあった。

「クラウス叔父さんが?」
教会の片隅の小部屋。そこで謹慎していたクリフトは、ブライから謹慎を解く件と、クラウスの件を聞いた。
「うむ。もはや父も母もおらぬおぬしじゃ。どうしても城にいたいというのであれば、それでも良い。しかしその旨をクラウスに伝えねばならぬがな」
「いえ、もはや僕はこのお城にいても仕方がないでしょう。ただ・・」
「ただ?」
「アリーナ・・いえ。姫さまのことが」
「ふむ、おぬしもそう思うのか」
「自分で言うのも何ですが、僕たちは本当の兄妹同然に過ごしてきました。・・ただ、その・・」
「うむ、心配なのは分かるぞ。陛下も同じことを思ってらっしゃる」
「王さまが・・」
「姫さまのことは陛下と儂に任せてはくれぬか。おぬしにこのような思いをさせてしまって、すまなんだ」
「いえ。そのような・・」
ブライは神妙な面持ちで教会を後にした。

サントハイム城を出る。
王族ではないが、クリフトは自分の記憶の限りでは、城で育った。無論、クリフトがある程度育つまではサランにいたのだが、クリフトにその時の記憶などあろうはずがない。クリフトがエミリアに連れられて城へ来たのは彼が1歳の頃である。
彼の一番古い記憶は、アリーナと一緒に遊んだり眠ったりしていることだった。おそらくクリフトが2歳か3歳、アリーナは1歳かそこらのことであろう。
彼の記憶の中には、常にアリーナがいた。それは無論、アリーナにとっても同じことだった。国王は多忙で王妃は病弱。周りには気難しい大人がたくさん。アリーナにとって、自分が本当の自分らしくいられた相手は、両親の他には教育係のブライ、乳母のエミリア、乳兄妹のクリフトだけだったのだ。
特にクリフトにアリーナはとても懐いていた。本当の兄妹のように過ごし、ずっと一緒にいるものだと思っていたのだ。
「いつまでも、というわけにはいかない・・よな」
クリフトはひとり、教会の隅でぽつりと呟いた。
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