DQW短編・SS(単品)

□ A magic spell
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世界が平和になったある日。
今日は大きな予定もなく、アリーナは教会の隅にあるクリフトの部屋を訪れていた。
アリーナは珍しく本を読んでいた。しかもかなり真剣に。
ようやく顔を上げて、ほう、とため息をついた。
「珍しいですね、姫さまが熱心に読書など」
「うん、面白かったわ。ロンダルキアの戦いの伝説」
「ああ、あの伝説の勇者の子孫のお話ですね。私も神学校時代に読みましたよ。勇ましい王子と、優しい王子と、美しい姫の3人による冒険譚ですね」
「そうそう。でね、クリフト」
アリーナはクリフトににじり寄り、じっと見つめる。
「サマルトリアの王子って、クリフトみたいよね」
「・・・はい?」
「力は強くないし、緑色の旅装束だったらしいし、でも色々と呪文が使えて、優しくて、旅の途中で命に関わる病気になっちゃうの」
「・・・ああ、そうです、ね・・」
クリフトは過去の失態を思い浮かべて苦笑した。
「その上、即死呪文と蘇生呪文を操ったりして。途中からサマルトリアの王子をクリフトだと思って読んじゃってたわ」
「はあ・・」
「でもね」
アリーナは少し真剣な表情になった
「自己犠牲呪文だけは、クリフトが使えなくてよかったって、そう思ったの」
「・・え?」
「マーニャから前聞いたことあるの。ミネアは実は自己犠牲呪文が使えるってこと。マーニャは絶対に使うなって止めてたって。クリフトも止めてたんでしょう?私この前マーニャから
はじめて聞いたわ」
「・・はい。ミネアさんの呪文は王子のとは違うものになりますが。姫さまはご存知なかったんですね」
「もしかしたら、クリフトが使えてたら、その呪文を使ってたんじゃないかって、その時思ったのよ」
「・・かもしれませんね」
「伝説の中でも、ローレシアの王子が必死で止めたって、そう書かれていたわ。使ったら許さない、そんなので助かったって何も嬉しくなんかない、一緒に生きて帰るんだって。私も同じ。そんなので助かったって、嬉しくなんかないし、絶対に許せない」
「・・姫さま・・・」
「もしかしてクリフト、本当は使えたりするの?」
「そうですね……勉強すれば使えるようになるかも知れませんね。少なくとも現時点では使えませんし、勉強するつもりもありませんよ」
「そう、ならよかった。安心したわ」
アリーナは紅茶に口をつける。
「姫さま、おかわりは」
「ありがとう、いただくわ」
クリフトは紅茶を入れ直そうと席を立った。そんなクリフトを見て、そっとつぶやいた。
「でも、あなたが王子さまだったらよかったのにな・・」
「何かおっしゃいました?」
「ううん、何でもないわ。クリフトが生きててよかったなって思ったの。自己犠牲の呪文なんて、使わなくて」
「ありがとうございます」
決して嘘ではないところで言いつくろった。
その場では明かされない本音は、全く別のところにあることを、アリーナは自覚しはじめていた。
それは、クリフトが王子だったら自分は公務などしなくても良い、という意味ではなく。
「・・いつか、私といっしょに・・」
お湯を沸かしに部屋を出たクリフトを思いながら、アリーナは独りごちた。

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