DQW短編・SS(単品)

□I should have said …
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「とうとう、明日なのですね」
教会の祭壇前。先日、助祭さまへ昇格したというあなたが、教会の用意を整えていた。
「助祭として姫さまの門出の一役を担うことができるとは、こんなに喜ばしいことはありません。助祭の役割は小さなものですが、精一杯努めさせていただきますよ」
あなたはそう言って、いつもの通りの優しい笑顔を見せてくれる。
ねえ、それって本心なの?
……そんなことを思ってみても、もうどうにもならなくて。

一緒に旅をしている間、私たちはいつも一緒だった。
ううん、旅に出る前も、乳兄妹として、臣下として、講師として。ずっと一緒だった。
それが普通で当たり前だと思っていた。
でも、旅から帰ってきて、お城も元に戻って。
待っていたのは、王族としての生活。
漠然と普通だと思っていたことは普通じゃなかった。当たり前なんて、何もなかった。
気付いたら、フレノール公爵の息子との婚儀が決まっていた。

今更だった。
将来、私はサントハイムを背負って立つ女王となる。
そこで一緒に歩む人は、私が望んでいた人とは違う、ということに気付いた。

あなたの隣がよかった。
あなたの隣に立ちたい。

そう言えたら。
それが言えてたら。

でも、もうどうにもならない。

優しい笑顔を浮かべて、教会の祭壇を整えていくあなた。
聞けばいつものように教えてくれるのかな。
何でも知ってる、賢いあなたなら。

ねえ、苦しいのよ。
どうしたらいい?

それも聞けてたら。
それが言えてたら。

あなたはいつも私を守ってくれて。
私を何より大切にしてくれて。
ずっとそばにいてくれて。

……ああ、愛されてたんだ。
乳兄妹とか、臣下とか、じゃなく。

ねえ、私も同じ気持ちだったことに
今更気付いたんだよ。

どうしてもっと早く気付かないかな、自分。
あなたが自分の立場をわきまえて、私にそういったことは言わないなんて、それこそ当たり前のことじゃない。

「……姫さま?」
あなたは私の顔を覗き込む。
「何を、泣かれているのですか?」
そう。気付いたら泣いていた。
私はいつも鈍感だ。あなたにだけじゃなく、自分自身にも。
「そんなお顔をなさらないで。せっかくの美しいお顔が台無しですよ」
皮肉にも、あなたへの想いに気付いた後、私は綺麗になったとよく言われるようになった。
周囲は私の婚儀が決まったからだと思っている。
……違う。
遅すぎる恋をしているからなんだ、きっと。

「まだこちらの準備はかかります。そろそろ姫さまもお戻りにならないと。明日のご用意はいいのですか?」
「……いいの。女官たちがやってくれているわ」
それを言うと、あなたは苦笑しながら
「神はあなたをいつでも見守っておいでです。教会はあなたをいつでも受け入れますよ」
そう言った。
そう、よね。
でも、神様は意地悪だわ。
そして、私を受け入れてくれるのは教会であって、
あなたじゃ、ない。

「ね、」
私は最後に、
「ひとつだけ、我儘を聞いてくれる、かな」
最後、本当に最後だから。
「何をでしょう?」
優しい笑顔で、返してくれるあなた。
「キス、して」
あなたは固まった。そうよね、いくら何でもこんな我儘。
「……どうなさったのですか?キス、などと」
「お願い。最後、だから」
あなたは私に近づいてきた。
「それをしてどうするおつもりなのですか」
「………」
答えられない。
今更言えない。
「……冗談よ」
この声が尋常ではなく震えている。
「とても冗談には聞こえませんが」
あなたは身を屈める。背の高いあなたが、私の目線に合うように。
「……最後、ですよ」
あなたは十字を切って、私の額にキスをした。
「明日は私の口からは言いませんので、今、こで。『貴女に神の祝福を』」
そしてあなたは私を抱きしめた。
「……アリーナさま、どうぞ、お幸せに」
私は流れる涙を止めることが出来ずに、ただあなたの腕の中に収まっていた。
苦しいくらいに抱きしめられる。

聞こえる。
あなたの慟哭。

ねえ、あなたは分かっていたの?
今日みたいな日が来ることを。
その上で、私を……


ずっと一緒にいたかった。
一生を共にしたかった。
いつも笑い合っていたかった。



ありがとう、クリフト。
ありがとう・・

やっと分かったんだ、私。
でも。
遅すぎた、ね。


ごめんね、


ずっと、愛してたよ。

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