DQW短編・SS(単品)

□Valentine's sweets
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「バレンタインデーよねえ・・」
マーニャは空を見つめてため息をついた。
「・・てかさあ、姐さん」
ソロが訝しげに尋ねた。
「何よ・・」
「バレンタインデーって、何?」
「へ?」
マーニャから変な声が出た。

「諸説ありますが、昔、遠い国の王様が兵隊の士気が下がると言って兵士の結婚を禁止したそうです。しかしそれはあんまりだと、聖バレンティヌスが教会で式を執り行い、多くの兵士が愛する人と結婚をしました。バレンティヌスはのちに処刑されてしまうのですが、このことにあやかって、共に過ごす、贈り物をするなどして、愛する人を大切にする日となったということですよ」
クリフトは端的に説明した。
「遠い東の国では、どこかの製菓店によって、女性が想いを込めて男性にチョコレートを贈る日となったと聞きます。まあ、国や地域によって様々なバレンタインデーがあるということですよ」
「ほーん。そんな日があるのか。俺の育った村ではそんな風習なかったからなあ」
「まあ、この日に異性から何か頂いたら、その方は貴方に気があると解釈してもいいのかもしれませんよ?」
「やめてくれよ、俺はシンシア以外の女は今んとこ考えられねーんだからよ」
「しかし、空を見つめてため息を漏らしていたとは、マーニャさんも、バレンタインに関して何らかの想い出があるんでしょうね。あれだけ美しい方ですから」
「んだな・・」
ソロとクリフトはそんな事を話しながら、街をぶらぶらと散策していた。
街はバレンタインの贈り物商戦真っ盛り。様々なものが贈り物用として店頭に並べられている。
「で、クリフトはどーすんだ?」
「何がですか?」
「大切な人への贈り物。やらないのか?」
「滅相もない。私が贈り物など、分不相応ですよ」
「ちぇー。お堅いなあ、神官さまは」
「まあ、バレンタインにかこつけて、お菓子をお作りしてもいいかなとは思ってるんですけどね。先ほどチョコレートの話をしましたが、姫さまはブラウニーだとかチョコチップクッキーだとか、そういったチョコレートを使用したお菓子もお好きなんですよ」
「おお、いいじゃん。俺にも試食させて」
「食べたいだけでしょう?いいですよ。多めに作って皆さんにお分けしようかと思っていたので」
「さっすがクリフトちゃん♪」
というわけで、男2人は製菓材料を見にお店に入っていった。
そこには、アリーナとミネアがいた。
「あれ?クリフトじゃない。ソロまで」
「げ、まさかアリーナ、お前菓子作るの?」
ソロはクリフトから聞いていた。数年前のクリスマスの、パデキア味のケーキのことを。
「うん。でも失敗はしないわ。ちゃんとミネアと一緒に作るもん」
それを聞いてソロとクリフトは安堵した。
「そういうソロさんとクリフトさんも、お菓子を作るんですか?」
ミネアが聞いてきた。
「俺は味見係。作るのはクリフトの係」
「なら安心ですわね」
「ならって何だよ、ならって」
「クリフトって、お菓子作れたの?」
「ええ、趣味程度ですが」
そしてそれぞれお菓子作りに必要な材料を購入し、宿屋の主人の了解を得て、お菓子作りに入った。

クリフトは手際よく作業を進めていく。
「さ、アリーナ、まず材料をきちんと計りましょう」
一方、ミネアはお菓子づくり初心者のアリーナに手順を説明しながら、一つ一つの工程を丁寧に進めていく。
「お菓子作りって俺には向かねーわ。ガサツだからなー」
「そうですね、目分量はききませんからね」
ソロはクリフトの作業を見学していた。
「ていうかさ、なんでお前お菓子作りなんて知ってるんだよ」
「神学校の実習で、子どもたちと教会で一緒に学んで遊ぶというものがあったのですが、そこでお菓子作りをしようという計画が持ち上がったのです。それ以降、ハマりましてね」
「ほーん」
「休日などに寄宿舎の台所をお借りしてよく作っていたのですよ。作ったものは、教会の子どもたちはもちろん、クラスの皆さんにも配ったりしました。なかなか好評だったのですよ」
「えっ、そうだったの?」
隣のテーブルで作業を進めていたアリーナが声をあげた。話を聞いていたらしい。
「知らなかったわ。クリフトが神学校の頃からお菓子作りしてたなんて」
「ああ、お話ししてませんでしたっけ。お城に勤めてからは、作る機会もあまりありませんでしたし、たまには作っていたのですが、姫さまにはお伝えしていませんでしたものね」
「・・ずるい」
「え?」
「私も食べたい!クリフトのお菓子!」
「お伝えしていなかっただけで、薬学の授業の時にお出ししていたのですよ」
それを聞いてソロは
「なぜ言わない」「そういう問題じゃないだろ」
などと小声で呟いていた。
「だってクリフトが作ったって知ってたらきちんと味わったもん。ちゃんとクリフトに感謝しながら食べたもん」
ソロとミネアは知っている。
アリーナは「兄」を独り占めしたいということを、そして割と嫉妬深い性格であることを、そしてその事に気付いていないのは当のアリーナとクリフト本人たちだけだということを。
「申し訳ありませんでした。配慮が足りなくて。今回はきちんと腕によりをかけてお作りいたしますね」
とクリフトは優しい笑顔でアリーナに言った。あくまで表面上は。心拍数が尋常じゃなく上がっていたことは誰も知らない。
アリーナも
「分かればよろしい」
と、作業に戻った。
案外「兄妹喧嘩」がさくっと終わった事にソロもミネアも安堵していた。
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