DQW本編(短編・SS)

□Overnight
1ページ/4ページ

「まずい、よなあ・・」
ソロが呟く。
「まずい、っすねえ・・・」
クリフトはあまりのまずさに言葉遣いが乱れていた。
「明日から大丈夫かよ・・」
ここはバトランドの宿屋の一室。相部屋であるソロとクリフトはため息をついた。

事の発端は、バトランド城でのこと。バトランド王に「天空の盾」なるものについて尋ねるために訪れていた。
バトランドの王宮戦士であるライアンの案内で、バトランド城内を見て回っていた時のこと。
とある女性がライアンにこう言った。
「私、あなたの旅の無事をお祈りしておりますわ・・」
それはもう、恍惚とした表情で。
そこに居合わせていたのは、ソロ、クリフト、マーニャ。マーニャの表情が一瞬変わったのを、男子二人は見逃していなかった。
「あれは・・多分そういうことだよな・・」
「ええ、そういうことだと思います・・よ」
マーニャは「ライアンもやるじゃない」と言ったきり何も言わないし、それ以降は普通に振る舞おうとしていたのは分かった。しかし、あくまでも、振る舞おうと「していた」、のである。振る舞っていたとは言っていない。

夜、食事後に「軽く飲もう」という話になり、酒場へとみんなで行ったのだが。
いつもは和気藹々としていて、傍目から見てもいい雰囲気になることが多いライアンとマーニャの様子が、明らかにおかしい。
ライアンは生来の不器用さのせいか、どこかぎこちなく、マーニャはマーニャでどこかトゲがある。
「さぞおモテになるんでしょうねえ、バトランドの剣士隊の戦士さまは」
などと、言わなくてもいいことを言ってしまったり。ライアンはライアンで
「そのようなことはない!その、あのご婦人のことは・・もう過ぎたことだ!」
とかなんとか言い繕ってはいたのだが・・
「・・ダメだこりゃ」
ソロとクリフトとミネアは葡萄酒を手にため息をつくばかり。
アリーナもよくわからないながらも雰囲気がおかしいことは察知した。
ブライとトルネコは大人の余裕か、まあそんなこともあるさ、くらいの顔しかしていなかったが・・
何となく気まずい空気のまま、酒場を後にした。

そして今、ソロとクリフトは売店で麦酒や葡萄酒を買ってきて部屋で飲み直していた。
「ライアンさんとマーニャさんは、・・一応“まだ”そういう関係ではない、ですよね?」
クリフトは恐る恐る確認する。彼は優秀な聖職者ではあるが、それ故恋愛に関しては経験が明らかに不足しており、自らの恋心すら持て余している状態である。
「そう、“まだ”、な。多分」
ソロは恋愛はしたことはあるものの、経験豊富とはとても言い難い。
山奥育ちの青年と敬虔な若き神官には、「大人の恋愛」というものは難しすぎるのである。
こんこん。ドアがノックされる。
「ねえ、ちょっといい?」
「おう、アリーナ」
「どうなさったのですか姫さま。このような時間に男子の部屋を」
アリーナは兄のように慕うクリフトと、同い年で気の合うソロの元を尋ねてきた。
「ごめんね、長居するつもりはないんだけどね。なんかね、ミネアとマーニャがギクシャクしてて、逃げてきちゃった」
ソロとクリフトは顔を見合わせ、ため息をついた。

今日は女性3人は一部屋である。いつもはあの美人姉妹はアリーナをとても可愛がっているし、アリーナも2人を姉のように慕っている。しかし、今日はいつもと勝手が違うのだという。
「マーニャは何話しかけても『そうね』しか言わないし、ミネアはなんか気を使っちゃっててさ・・いたたまれなくなっちゃって。いくら私がバカでも何だかおかしいことぐらいは分かるわ。何があったのかぜーんぜん分かんないけど」
アリーナはクリフトの麦酒に横から手を出して飲んだ。
「にっが!何これ、こんなの飲んでるの?」
「普段は飲みませんよ」
「でも今飲んでるじゃない。平気なの?こんな苦いの」
「まあ、そうですね、平気ですね」
「えー?じゃあソロも?」
「俺は基本麦酒だからな。麦酒は苦い。人生のように。そこがうまい」
「何よ同い年なのに偉そうに」
「まあまあ。こちらに葡萄酒もありますが、召し上がりますか?」
「ううん、いいわ。お水もらえる?」
「はい、こちらに」
「ありがと」
「しっかしなあ」
ソロはぽつりとこぼした。
「あの姉妹、ぎくしゃくしてんだろ?よっぽどのことなんじゃねーかってな」
「本当よね。私、部屋に戻れるのかしら」
「まあ、頃合いを見て戻るしかありませんよね」
「もうここで寝ちゃおうかな」
「何をおっしゃってるんですか。ダメに決まってるでしょう」
「いいじゃない。私とクリフトが一緒に寝ればさ」
「ならば姫さまがベッドでお一人で寝てください。私は床で寝ますので」
「何よ、そっちの方のダメに決まってるでしょ?」
なんだこの言い合いは、と半ば呆れながらソロは一応止めに入った。
「あー、そこ。兄妹喧嘩はやめてくれよ?ただでさえあっちの姉妹はぎくしゃくしてんだからさ」
「あ、ごめん」
「ま、いざとなったら俺とクリフトが一緒に寝れば済む話だしな。狭いけど」
「私は嫌ですよ」
「いやん、いいじゃないのクリフトちゃん」
「ソロさん気持ち悪いです」
「ま、冗談はさておき、ある程度の時間になったらとりあえず戻るしかあんめえ。そしてどうするかはその時に決めようや。もしかしたら空き部屋があるかもだしな」
「それもそうね」
その後は他愛もない会話をして過ごした。
ふと時計を見ると、なかなかいい時間。
「姫さま、そろそろお戻りに」
「うん、そうね」
「お送りしますよ」
「いいわ。ありがと」
そしてアリーナは戻っていった。
「ま、またなんかありゃこっちに帰ってくるだろ」
「・・いや、多分もうこちらには来ませんよ、姫さまは」
「そうか?」
「案外、ああ見えて気を使われるんですよ。それもまた可愛らしいんですけどね」
「でた。お前酒入るとしれっとそういう事言うよな」
「本人の前では言えませんけどね」
「ですよねー」
そして男二人は就寝の準備に入った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ