DQW本編(短編・SS)

□Singing in the rain
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とある街の宿屋の朝。清々しい天気だ。
「おはよクリフト、よく寝れた?」
姫さまの朝は早い。私の朝も早いのだが。
「おはようございます、姫さま。やはり疲れていたのでしょうか、本も読まずに眠ってしまいまして」
「珍しいのね。私も昨日はすぐに寝ちゃったわ」
ここのところ、激戦が続いていた。今日はその疲れを癒そうと、休息日にした。
「お休みなんですからもう少し寝ていてもよろしかったのに」
「だって落ち着かないんだもの。クリフトこそ、今日くらいは寝てても良かったんじゃない?」
「いえ、私は教会の朝の礼拝に行こうかと思いまして」
「相変わらず真面目なのね」
「姫さまはこれから走り込みですか?」
「そうね……一緒に教会へ行こうかしら」
「おや、珍しい」
「何よ失礼ね」
「あれだけ神学の講義を抜け出されていたのに」
「だって難しいんだもの。教会自体が嫌いなわけじゃないわ」
私は苦笑した。
素直なところは相変わらずだが、講師の目の前で神学の講義が嫌いだと明言しているも同然だと気づいていらっしゃるのだろうか。
それすらも可愛らしいと思ってしまう自分はもはや末期だ。
2人で少しゆっくりと教会へ向かう。他愛のない話をしながら。運が良ければ、少し教会の方から情報なども聞けるかもしれない。

教会のドアを開ける。
礼拝が始まるところだ。
神の言葉を聞き、祈り、司祭さまの説法を聞く。
ひと通り済んだところで、シスターに声をかけてみた。
「まあ、サントハイムからですか。遠路はるばる、大変でございましたでしょう。どうぞ、ゆっくりお過ごしください。これから聖歌隊の練習が始まりますので、司祭さまとお話できるのはその後になってしまいますが」
「お忙しいところ申し訳ありません。出直してまいります」
「あら、せっかくだから聖歌隊の練習を見ていってくださいな。サントハイムの聖歌隊とは随分違うでしょうけれど」
「え、いや、しかし……」
私は是非とも聞いてみたいのだが、姫さまは退屈されるのではないか。そう考えていたら
「いいじゃない、せっかくだから聞かせてもらいましょうよ」
意外にも、承諾された。
しばらくして、街の少年や青年たちがやってきて少し賑やかになった。どうやら男性だけらしい。
サントハイムの聖歌隊は声変わりを迎える前の子どもたちだけで構成される。しかし、性別は問わない。私も声変わりを迎えたと同時に卒業した。なるほど、シスターのおっしゃる通り、随分と違う。
オルガンを弾くシスター、歌唱指導の神官、それを見て意見する司祭さま。
曲は基本的にサントハイムと同じものだったが、若干歌詞や節回しが違うようだ。地域によって聖歌の発展が違うということは知識として知ってはいたが、実際に耳にするとさらにそのことが身にしみてくる。

練習終了後、司祭さまや他の神官の方とお話する時間を持てた。
この街は比較的平穏だが、少し離れると魔物の被害が大きくなるため、今は人の出入りが激減していること、
少し南にあるコナンベリーの灯台から強い魔力の気配が感じられると旅の魔導師が言っていたこと、
それを裏付けるように、コナンベリーでは船の出入りがこれまた激減していること。
「世界を回られるのでしたら、早めがいいかもしれません。コナンベリーはこの辺りの船の交通の要所ですが、この有様では・・」
「そうですか。ありがとうございます。我々も旅の計画に役立てようと思います」
「お気をつけて。あなた方に神のご加護を」
そして我々は教会を後にした。

が。
「あれ……雨?」
なんと。今朝はあんなに清々しかったのに。
「お待ちください、傘を借りられるかきいてまいります」
私は再びシスターへ話しかけた。
シスターは快諾してくださった。が
「あら?・・ごめんなさい、何本かあったはずなのですが・・」
「ああ、傘ならこの間盗まれてしまったのですよ」
司祭さまが教えてくれた。
「盗まれたですって?」
「ええ、情けないことに。かろうじて今はこれしかないのですが……」
そう言って、一本の少し大きめの傘を貸してくれた。
「ありがとうございます。後ほどまたお返しに参りますので」
さて、傘は姫さまに使ってもらうとして。私は濡れても仕方ないか。
「何言ってるのよ。一緒に使えばいいでしょ?」
「そんな、そのようなことは」
「いいじゃない。私たちは今はただの旅人なのよ。兄妹として振舞うのなんて慣れてるじゃない。『お兄ちゃん』が濡れてしまうのなんて、不自然だわ」
そう言われると何も返せない。
「それでは、失礼いたします」
私は帽子を取り、傘をさした。
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