DQW本編(短編・SS)

□Hold out your hand
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ここは水の都、スタンシアラの宿屋。
夕食後に少しゆとりがあった。おまけに全室個室という宿だった。
夜の街へ繰り出す人、ゆっくりとお風呂で体を癒す人、とにかく寝る人。
私は久しぶりに本を読める機会だと思い、荷物から手に入れたばかりの神学の本を取り出した。
聖書の解釈は神学者によって様々で、私に新たな視点を提示してくれる。改めて神学は一筋縄ではいかないものだと気づかされる。年齢や経験によっても解釈や感想が変わるというのも、宗教書の醍醐味と言えるかもしれない。

と、そこに。
なにやらドアの外で声がする。
「私はクリフトに用があるの」
「俺もクリフトに用がある」
「どれだけ時間かかるの?」
「下手すりゃ真夜中までだ」
「なにそれずるい。私は今日はクリフトと一緒に過ごすつもりで来たのに」
姫さまとソロさんだ。
……って、二人とも私の都合は無視ですかそうですか。まあ、本は逃げませんからまた後日でもいいんですけどね・・
私はため息をついてドアを開けた。
「二人とも、聞こえてますよ。とりあえず入ったらどうですか?」
そして私は二人を部屋に招き入れた。

ソロさんは今後の行程を考えた際、長い船旅が予想されるため、魔物退治のメンバーの組み合わせや日程の調整などを相談したいとおっしゃった。
姫さまは「クリフトとおしゃべりしたい」とおっしゃった。
それは非常に嬉しいのだけれど、たとえ乳兄妹といえども一応は年頃の男女。うら若き乙女が男子の部屋に入り浸るのは如何なものか。
とりあえず、私はソロさんとの相談を優先させた。極力早くすませるつもりで。それが終わりましたら姫さまとお話をします。姫さまにはそのように申し上げた。
しかし、姫さまは部屋を出ようとしなかった。邪魔しないから。そうおっしゃって、私の隣に座った。
最初は興味津々で我々の相談を聞いていたが、次第に眠くなったのか、ベッドの縁に座っている私の膝を枕にして、姫さまは眠ってしまわれた。
つまり、私は姫さまを膝枕しながら、ソロさんと相談をしていたのである。

「もしもーし?アリーナ?アリーナ姫さま?サントハイム王国第一王女さま?アリーナちゃーん?」
相談も一段落し、ソロさんは姫さまを起こそうとしたが、起きない。
「役得ですか神官さま」
「いえ、そうでも。地味に人の頭って重いんですよ」
「真面目か!」
「しかしこのままってわけにもいきませんしね。時間もだいぶ遅いですし。そっとお部屋へお連れしますよ」
そして私はそっと姫さまを横抱きにして
「すみませんソロさん、ドアを開けていただ」
「だめー」
ん?
「なによう。ソロがさっさと帰っちゃえばいいと思って寝たふりしてたのに」
「起きてたのかよ!」
「起きるタイミング逃しちゃったのよ」
なんたること。私は脱力した。
ソロさんは半ば呆れながらため息をついた。
「ま、とりあえず俺は邪魔なんだろ?さっさと寝るべ」
「そんな、邪魔だなどと」
「まーいいって。もう遅いからほどほどにな。明日寝坊すんなよー」
そう言ってソロさんは自室へ戻った。
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