DQW本編(短編・SS)

□Stagnation
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サランの街のはずれにある小さな飲食店。
酒場らしい酒場がないこの街では、こういった飲食店で料理とともに酒を飲むのが主流となっている。
クリフトに一番遅くまでやっている店を聞き出し、マーニャは一人でやってきた。
黒ビールとフィッシュ&チップスを注文する。

父の仇を討った。
妹の想い人の仇でもあったかもしれない。
しかし。

悲しさが消えるわけではない。
マーニャは父親っ子として育った自覚がある。どこでも父さん父さんと言っていたものだった。
しかし、そんな父親っ子の心が揺れ動く男が現れた。それがあの男だった。
マーニャの生まれ持った美貌と気風の良さ。男なら誰でも振り向くであろう。二人がそういう関係になるのに時間はかからなかった。
しかし。
その男により、父が殺され、妹の想い人も重傷を負った。
許せなかった。裏切られた。
自分の心も。
やり場のない怒りと悲しみ。
見つけたらただじゃおかない。
そう思っていた。

キングレオ城で、そして、サントハイム城で対峙したその男は、もはや人間ではなかった。
同時に、姉妹は父の業の深さも目の当たりにした。
進化の秘法。
目の前のバケモノはかつて愛した男なのか。いや、違う。
違うと信じたい。
しかし、父はどうなる?
父もその力の一端を担ってしまったということか。
とすれば、自分が出来ることは何か。
マーニャに考えられることは、ただ一つしかなかった。


「隣、いいか?」
聞き慣れた声がした。
振り返ると、バトランド剣士隊屈指の剣豪がいた。
「何よライアン。そっとしておいて欲しかったのに」
「すまん。なんなら、この店を出るが」
「いえ、いいわ。一緒に飲みましょう」
「鴨とチーズの燻製、あと、赤の葡萄酒を」
そしてグラスをかち合わせる。
「あんたもこの店、クリフトちゃんに聞いてきたの?」
「いや、俺はブライ殿から教えてもらった。サランの酒飲みはこの店に集うと」
確かに、街のはずれにある割には客は多い。そしてやかましすぎず、静かすぎない、ちょうどいい空気感のある店だ。
「クリフト殿のような、あまり飲まない者でも知っているのなら、この店は信頼が置けるだろうな。ちょうどよかった」
二人はぽつぽつと言葉を交わしながら、ゆっくりと酒と料理を味わった。
2人はよく一緒に酒を飲む。2人とも酒豪であり、性格は全く違うのだが、初めて一緒に飲んだ時から意気投合していた。
いつもは、陽気なマーニャに穏やかに相槌をうつライアンなのだが、今日はいつもと様子が違った。
「ミネア殿は一人にしておいていいのか」
「うん、あの子、そっとしておいて欲しいって」
「そうか。今日の女性陣は皆個室か」
「そうね。アリーナは一人でも大丈夫なのかと心配になったけど、クリフトちゃんやお爺ちゃんがいるからって。今頃どうしてんのかは知らないけど、なんだかんだで、アリーナのことを一番よーくわかってるのはクリフトちゃんだわ。それにしても、クリフトちゃんだってお爺ちゃんだって、あのお城に勤めてたわけだから、ショックは大きいだろうにね」
「うむ。クリフト殿の忠義心は眼を見張るものがあるな」
「本当に忠義心だけかしら?」
「・・さあ、な」
いくらはずれとはいえ、ここはサントハイムの城下町である。これ以上は口にしてはならぬと、ライアンは多くを話そうとはしなかった。
「・・そういうマーニャ殿は」
「なに?」
「いや・・こんなところに来ていて大丈夫なのか」
「そうねえ・・ミネアみたいに1人で過ごすことはちょっと出来ないし、かと言ってアリーナみたいにそばにいてくれるような人もいないからね。とりあえず飲んどこってなっちゃったわけよ」
「しかし先ほどそっとしておいてほしいと」
「そうね・・単なる強がりよ。あたしもワインいただこうかしら」
「それならばボトルでいただこうか」
ライアンは上等の葡萄酒を注文した
「え?そんないいお酒・・」
「気にするな。俺のおごりだ」
「だからって・・」
「俺が飲みたかったんだ」
そして注がれる葡萄酒。
二人とも言葉は少なかったが、マーニャは何故か安心感を得ていた。

「・・今から言うのは独り言だから聞き流してて頂戴」
「うむ」
「・・好きだったのよ、あいつのこと」
「・・」
「父さんのお弟子さんでさ、すごく出来る人でさ、カッコよくてさ」
「・・・」
「なのに、父さんはあいつに殺されて、あいつはバケモノになって・・しかも、父さんが発見した進化の秘法ってのを使ってさ」
「・・・・」
「あたしは大切な人を二人もめちゃくちゃにされたわ。その進化の秘法ってので。あいつがなんで父さんを殺してまでそんなものに手を出したのか、それは分からずじまいだったけど・・」
マーニャは流れてくる涙を拭いながら話した。
「・・愛していたのよ。そう、愛していたの。すごく。一生、この人の隣にいるもんだって思ってたわ。だから」
「・・マーニャ殿」
「この手でカタをつけるって、そう決めたの。本当はあたし一人で乗り込みたかったくらい。それは流石に無理だったけど」
「・・マーニャ殿、そなたは」
「でも、ソロには感謝してるわ。そして、まだ進化の秘法のカタがついたわけじゃない。あたしにはその責任があるのよ。エドガンの娘としてのね。だから」
「・・・マーニャ、」
「進化の秘法をぶっ潰しに行くわ。あたしの旅の目的はまだ道半ばなのよ」
「・・そうか」
「・・そう。だからね、ライアン。ソロだけじゃなくて、あたしたちの手助けもしてくれないかしら」
「独り言じゃなかったのか」
「あんただって途中口出ししたじゃない」
「すまん。無論、手助けはするさ」
「うん、ありがと」
「まあ、今日はゆっくり飲め。俺は早めに失礼させ」
マーニャはライアンの腕を掴んだ。
「・・マーニャ?」
「・・ごめん。一人でいるのはやっぱり無理みたい」
「マーニャ・・」
「今日は付き合ってもらうわよ。明日は休息日だってソロも言ってくれたから」
「・・俺は、お前の愛した男ではないぞ」
「あんな男のこと、どうでもいいわ。昔の話よ」
「・・お前のような美貌の持ち主に言われると、こちらは勘違いをしてしまいそうになるんだが」
「いいわよ、勘違いしてよ」
「・・マーニャ?」
「今日は一緒にいてほしいの」
「・・知らんぞ」
「どうとでも」
二人はいつもの陽気さとは全く違う、そんな夜を過ごしていった。
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