DQW本編(短編・SS)

□Leaving
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「とうとう、その時が来たようだな」
サントハイム国王は呟いた。
「左様ですかな」
国王の側近であり、サントハイム国魔導師長を務めるブライは、その呟きの意味するところを察知した。

「クリフト、この薬草って毒消しに使えるの?」
「そうですね、微弱な毒であれば有効ですが、強い毒になるとあまり効き目はないかと」
「強い毒ってどの程度?毒ヘビとか?」
サントハイム城内の学習室。サントハイム国の王女アリーナは最近薬草に強い関心を抱いている。
アリーナの乳兄妹であり、現在はサントハイム城内の教会に神官として務めるクリフトは、薬剤師の資格も持つ優秀な男である。今日はアリーナの薬学の講義を行なっていた。
「最近、姫さまは薬草について随分と熱心に質問なさいますが」
「うん、そうね。色々知っといて損はないし」
基本的にアリーナは勉強が得意ではない。そんな彼女が熱心に学ぶ姿は喜ばしくもあるのだが、クリフトはちょっとした違和感も覚えていた。
薬学の講義は、他の講義よりも緩やかに行われている。彼女にとって不要かも知れない薬の専門知識よりも、実生活に役立つ薬草や応急処置といったことに関する知識を持ってもらおうという方針のもと、クリフトがカリキュラムを組んで進めている。
そういった講義なので、アリーナにとっても多少は息抜きにはなっているのだが、そこは勉強が苦手なアリーナのこと。兄のように慕っているクリフトの講義とはいえ、脱走することもあるのだ。もっとも、同じくクリフトが受け持つ神学の講義に比べれば脱走率は大幅に低いのだが。
「姫さまが熱心に勉強している。これは何かの前触れではないのか」
クリフトがそのように考えるのもごく自然のことであるのだ。

一日が終わる。
クリフトは教会の掃除をし、片付けを行なっていた。
燭台についている蝋燭の煤を拭き取り、丁寧に磨く。
「今日はこれぐらいでいいでしょうかね」
明かりを落として、教会の奥にある自室へ戻ろうとした時、教会の扉が開いた。
「夜分に済まぬな」
「これはこれは、ブライさま」
「少しおぬしに用があってな。済まぬが、おぬしの部屋で、よいか?」
「ええ、構いませんが」
クリフトは自室にブライを通した。
「話というのはな・・おぬし、近頃姫さまの様子がおかしいとか、そういったことはないかの?」
「様子、ですか?」
「うむ。他言はせぬ」
「はあ・・特にこれといって・・ただ、」
「ただ?」
クリフトは率直に話すことにした。
「ただ、以前よりも薬学の講義に非常に熱心に取り組まれておりまして」
「ほう」
「薬草に関して、熱心に質問なさるのです。喜ばしいといえば喜ばしいのですが、なんといいますか、こう言っては無礼なのですが、違和感のようなものが・・」
「ふむ。なるほどな」
ブライは髭を撫でた。
「なるほどな、とは?ブライさまは何か心当たりでも?」
「この先のことは他言無用じゃ。おぬしを姫さまの兄と思うて話す。いいか?」
「・・ええ」
ブライは小声で話す。
「姫さまは、この城を出て行かれるおつもりのようじゃ」
「そうですか・・って、ええええ??!」
「しっ!声がでかいわ」
「あっ・・申し訳ございません」
「王がおっしゃったのじゃ。アリーナ姫さまは城を出て、旅に出られると。おぬしも王の能力は知っておろう?」
「ええ、夢で将来を予見する、と」
「ここのところ、ほぼ毎日見られるそうじゃ。確実と思うてよかろう」
「確かに、いつも旅に出たいとはおっしゃってましたが、まさか反対を押し切ってまではやらないだろうと思っておりました」
「ふむ。姫はいつも言うておられたか。もっとも、先日も部屋の壁を破壊しおった。その時はたまたまバルコニーに女中がおったから止められたがな」
そしてブライはしばし考えていた。
「・・明日じゃ」
「明日?」
「姫さまが城を出ることを決行する日。それは明日じゃ。わしはおぬしに確かに伝えたぞ。それだけじゃ」
ブライは椅子から立った。
「夜分に邪魔をして、すまんかったな」
そしてブライは教会をあとにした。
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