DQW本編(短編・SS)

□Separation
1ページ/3ページ

ある晴れた、晩春の頃。
サントハイム城にある教会の司祭が亡くなった。
司祭の名はケヴィン。詳しい原因は分からないが、高熱を出して倒れ、全身に発疹が出て、肺炎を併発させていた、とのことだ。

「クリフト、この度は気の毒なことじゃったな・・」
サントハイム城の魔導師長、ブライは肩を落としつつも、一人の少年をねぎらった。
クリフトという名のこの11歳の少年は、ケヴィンの一人息子。
「おぬしの母親も二年ほど前に亡くなったというのに・・」
クリフトの母、エミリアはこの城で女官を務めていた。そこで、当時サントハイム城教会の助祭として赴任したケヴィンに見初められ、結婚。サントハイム国教会の神職は妻帯を禁じられてはいない。そして、一人の男児をもうけ、クリフトと名付けた。
クリフトがすくすく育っていく中、サントハイムの国王ニコラス5世と王妃アレクシアの間に王女が誕生した。そこでエミリアは乳母を任ぜられ、王女アリーナを育てていくこととなる。
王妃アレクシアは3年前に急逝。その翌年、エミリアも流行病で亡くなった。
「姫さまもおぬしも、気の毒なことよ・・」
クリフトは涙をこらえてうつむくことしかできなかった。
「ともかく、おぬしをこの先、どうするかはまだ分からぬ。しばらくは儂が保護者がわりとなる。姫さまの兄としても、どうか、頼む」
「・・かしこまりました」

しかし、司祭ケヴィンの葬儀が終わると同時に、クリフトには考えもつかなかったことが起こり始めた。
「ふん、所詮は下賤の身ではないか」
「お前のようなものが姫さまの兄がわりとはな。先が思いやられるわ」
「とっとと消えろ、この下衆」
今までに言われたことのない罵詈雑言が政務官や貴族たちから浴びせられる日々が始まったのである。
「ケヴィンとやらも優秀な神官だったというが、所詮は顔だけの男だったのだろう?本当に優秀だったのかどうかも怪しいわ」
事もあろうに、亡き父を侮辱する者まで現れたのである。これにはさすがにクリフトも言い返した。
「父さんのことを悪く言うな!」
しかし、それが最後。高官にたてついたとして謹慎を命じられてしまったのである。

「陛下、いつまであのクリフトとやらを城に置いておくのですか。あのような輩は早く城から追放すべきです」
大臣が国王に「進言」する。
国王は言った。
「クリフトは何か罪を犯したのか。むしろ親のない、気の毒な少年ではないのか」
「もはやあやつがこの城にいる理由などありますまい。いつまでも姫さまの側に置いておくのも、無理がありましょう。所詮は神官と女官の間に生まれた下賤の子なのですぞ」
「それは聞き捨てならぬな、大臣」
「は?」
「ケヴィンは教会においてどのような勤めを果たしたか。また、エミリアはアリーナをどのように育て上げたのか。確かに彼らは身分は低いかもしれぬが、身分では語れぬ勤めを果たしたのだぞ」
「しかし、陛下」
「サントハイムは信仰と自由の国。違ったか、大臣」
「・・む、しかし!」
「クリフトの謹慎をすぐに解け。アリーナが待っている」
「陛下!」
「・・大臣、ケヴィンに対する私怨もそこまでにしておけ。見苦しい」
そう言って国王は謁見の間を後にした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ