DQW本編(短編・SS)

□Long time
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「う、そ・・」
私は信じられなかった。
ある夏の日のお父さまとの夕食。私はその「報告」を聞いた。
「嘘をついてどうするんだ、エイプリルフールでもあるまいに」
お父さまは苦笑いしている。
「あれが戻ってくるのは何年ぶりであったかな。5年かそこらは経っているだろうな」
「うん、5年、ね」
本当なのか疑ってしまう気持ちと、どう表現すればいいのかわからない喜びとがじわじわと同居し始めた。
「昨日卒業式だったそうだ。しばらくサランで過ごした後、来月から城に入ってもらうことになっておる」
来月。
あとひと月。
「任命式にはお前も参列してもらう。任命式については、そのうちブライから説明があるだろう。よく聞いておくように。よいな、アリーナ」
「かしこまりました、お父さま」

夕食を終えて部屋へ戻った。
じんわりと私の胸に広がる喜び。
「クリフトが、城の神官として戻ってくる」
お父さまから聞いた、この報告。

クリフトが、帰ってくる。
あとひと月で。

ひと月。
待ちきれない。
サランでしばらく過ごすって・・きっと司教さまのいる聖堂よね。

よし。
卒業したんなら会いに行けるよね?

「なりませんぞ、姫さま」
爺にピシャリと止められた。
「えー?どうして?」
「クリフトめは卒業から登城までの間、サランの司教の元で基礎的な神官の勤めを学ぶのですじゃ。いくらあやつが秀才とはいえ、城の神官の勤めは一筋縄ではいきませんからな」
うー・・。そりゃ確かにそうよねえ・・・
あーあ。普通の幼馴染とか兄妹だったら何の気兼ねもなく会いに行けるのにな。
ほんのちょっとだけでも、ダメ・・かな。

というわけで。
壁をぶち抜いてサランへやって来た。
聖堂はあっちね。遠くからでも大きな建物だからよく目立つ。

聖堂の扉を開ける。
シスターと神官さんが何人か。
クリフトらしき人は・・

あれ?
そういえば。

クリフトに5年近く会ってない。
男の人って、14、15ぐらいですごく背が伸びるって聞いた。
クリフトがお城を去ったのは12歳の時。今16歳のはず。秋が来たら17歳。
ってことは。
結構大きくなってたりして?
もしくは、それほど大きくなってない、かもしれない。
青みがかった髪の色だから、多分目立つはずなんだけど・・

いない。
聖堂にいないのか、聖堂内の別のところにいるのか。
中に入ってシスターに聞いてみよう。

「クリフトさんなら、今外出してるわ。あなたお知り合いなの?」
「うん、ちょっと、ね」
よかった。身バレしてない。
「またなのねえ、クリフトさんは。本当によくモテるわねえ」
「え?もて、る?」
「あら、知らないの?知り合いと称して若い女の子がクリフトさん目当てにこの聖堂によく来るようになったのよ。あなたもそうなんじゃないの?」
「ちっ、ちがうわ。私は本当にクリフトの・・・」
「どうしたんだ?」
あ、司教さま。クリフトの叔父さま。
「司教さま、この女の子がクリフトさんに会いに来た、と」
「!これは、アリー・・アリエルさん、お久しぶりだね」
司教さまは、とっさに私の身分を隠してくれた。
「お久しぶりです、司教さま。クリフトはお出かけなの?」
「そうなんですよ。ちょっと時間がかかるかと。夕方遅くになりますかね・・」
そうなんだ、残念。
「せっかく会いに来てくれたのに」
「構わないわ。急に来た私が悪いんですもの」
「せっかくだからお茶でも」
「いいわ、ありがとう。・・ところで司教さま」
「はい?」
私は司教さまに小声で尋ねた。
「クリフトって・・モテるの?」
「ああ、そうですねえ・・彼目当てに若い女の子がよく来るようになったのは事実ですよ。そんなとこまで兄に似なくてもよかったのに」
そう、私はまだ幼かったからよくわからなかったけど、亡くなったクリフトのお父さまに女官たちはみんな憧れていた、とサラから聞いていた。
「本当に、兄に似てきましたよ、顔も声も。アリー・・アリエルさんは兄のことあまり覚えていないでしょうけれどね」
「そんなことないわ。すごくよくしていただいたもの。すごく優しい人だったわ」
サントハイム教会の司祭だったクリフトのお父さまが亡くなったのは5年前。それがきっかけで、クリフトはお城を出て、叔父さまの元に引き取られ、すぐに神学校へ編入した。
それ以来、クリフトには会ってない。元々お父さまに似ていたけれど、さらに似たのかしら。
「いずれ、クリフトは城へ上がります。申し訳ないが、それまで待っていてはくれませんか」
司教さまは小声でそう言った。
「分かったわ。クリフトの邪魔はしちゃダメだものね。ありがとう、司教さま」
「おてんばも程々になさいませ」
「はーい」
そして私は城へ帰った。

「やはり向かわれたのですな、サランへ」
城へ戻った。爺から怒りのエネルギーを感じる。
「どうしてこう何度も何度も・・爺は悲しいですぞ!」
「はーい。ごめんね、爺。でもね、クリフトにはやっぱり会えなかったの」
「ふん、やはりな」
「クリフトがお城の神官に就任するまで、待つことにするわ。やっぱり邪魔しちゃダメだもの」
「うむ。最初からそう申しておりますがな」
壁まで壊しおって。爺はブツブツとつぶやきながら戻っていった。
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