DQW本編(短編・SS)

□Vocation
1ページ/4ページ

神学校最終学年。
夏になったら私は神学校を卒業する。
神学校を卒業したものは、地方や地元の教会で勤めるか、他国も含め、巡礼の旅に出るか、はたまた、医学や経理学、軍事学などなど、他の勉学に勤むか。

「クリフト、そなたはどうするのだ」
先生に尋ねられる。私は正直、迷っていた。
神官としてどこかの教会に勤めるか、あるいは、薬剤師への道を進むか。
「そなたは成績も優秀だ。どの進路を選んでもやっていけるだろう。慌てる必要もないが、早いとこ進路を考えぬと、叔父上も安心はできまい」
「・・そう、ですね」

教会に勤めることは神学校に入った時点から考えていた。しかしそれと同時に、薬剤師になることもまた考えていた。両親を病で亡くしたのがそのきっかけだった。ある程度の薬学は神学校でも習うのだが、より専門的な知識を得るために、サランのはずれにある医学校に編入ということも考えた。
しかし、経済的にどうだろう。両親のいない私には、学費を払う術がない。叔父に相談すれば快く出してくれるであろうけれど、気がひける。出世払いも考えたが・・

「ときにクリフト」
先生は話を続けた。
「実はサントハイム城の神官に空きがある。魔導師のブライ殿はおぬしも知っているだろう」
「え、あ・・はい」
「神官になるか薬学を修めるかで悩んでおるところ悪いが、サントハイム城へ行くことも選択肢に入れてはくれぬか。ブライ殿の推挙なのだ」
なんだって?あのブライさまが・・
「故郷の教会に帰って勤める者が多い中、サントハイム城はおぬしの故郷のようなものだろう。決して悪い話ではない。考えてみてくれ」
何てことだ。まさかサントハイム城の神官になれるかもしれないとは。
しかし、いくらブライさまの推挙があっても、サントハイム城の神官になるには城勤めの資格がいるし、試験もある。そのための勉学をせねばならない。今から大急ぎでやっても間に合うか・・

「ほほう、サントハイム城か」
休日、叔父のクラウスを訪ねてサランの聖堂へ赴いた。
「悪い話じゃないだろう。お前ぐらいの能力があれば、資格をとることも難しくはないさ。そもそも城育ちだろ」
「そうは言いますけれど・・しかし、なぜ私が推挙なんて・・」
私は紅茶の入ったカップに口をつけた。
「私も詳しくは聞いておらぬが、今のサントハイム城はなかなか厄介らしくてな」
「厄介?」
「自由と信仰の国と名高いサントハイムだが、今の中枢部はやたらと身分制度を重視していてだな。例えば政務官で下級貴族や一般庶民の出のものは、どんなに優秀であっても虐げられていると聞く」
ああ、なんか心当たりが。
「王女のアリーナ姫も春には15歳になられた。そろそろ婿殿のことも考えねばならぬのだが、姫さまの意思を尊重したい国王と、由緒ある王家あるいは貴族の男子を選定したがっている大臣とで意見が対立しているともな」
アリーナ姫。
その名前を聞くと胸が締め付けられる。
「そこへ何かを打破する存在が必要なのだよ。ブライ殿は幼い頃から姫さまと共に過ごしていたお前に目をつけたのだろう」
「しかし、我々とてそもそもは下級貴族の家柄で」
「神官ともなると話は別だろう。神官は俗世の身分とは切り離される。神官となって城へ上がれば、お前は一人の聖職者であって、虐げられるいわれはないさ」
そう言って叔父は紅茶を飲み干した。
「まあ、決めるのはお前自身だ。それでも薬剤師になるというのなら、学費は出せる。兄が残したただ一人の息子なのだからな。私にはお前を育てる義務があるのだよ」
叔父はそう言ってくれた。
そして、私の心は大きく傾いていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ