DQW本編(短編・SS)

□TALK
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サランを出発して、東へ。この先にあるテンペまでまだ距離はある。そうこうしているうちに夕刻になった。
「今日はこの辺りで野宿ですね。明日の午後にはテンペへ着くでしょう」
そうして、野宿の用意を進めるクリフト。私も共に作業を進めるけど、クリフトのようには手早くは出来ない。こっそり読んだ本で勉強した気になっちゃダメだな。やっぱり。
小さな頃から乳兄弟として一緒に過ごしていたと思ってたのに、彼はいつこのような事を覚えたのだろう。神学校でこういう事って習うんだろうか。
「神学校の頃に、国内の教会を廻って実習を行ったんですよ。野宿も何度も経験しましたし、こういったことはいつしか慣れました」
そういえば、神学校の事とかあまり聞いてない。クリフトもあまり話してはくれない。
というより、神学校に進学してからというもの、クリフトは個人的な話をほとんどしてくれなくなった。

クリフトが神学校へ進学するきっかけになったのは、彼の両親が亡くなったから。叔父であるサランの司教さまに引き取られ、そのまま、サランの神学校で学んでいたのだ。それから、ずっと会っていなくて、たまに手紙をやりとりするにとどまっていた。
いつの間にか、声が低くなり、背もぐんと高くなり、ずっとずっと大人になっていた。卒業後、神官としてお城へ帰ってきた時には、何だかちょっと遠い存在にすら感じていた。
私の知ってるクリフトじゃない。そんな事すら思った。
また話すようになったのは彼が私の神学と薬学の教師を務めるようになってからのこと。それでも、以前より言葉少なだった。
「そろそろ寝ましょうか。私が見張りをしますので」

・・とはいえ。
眠れない。
慣れない環境だから、というのと、初めての野宿で少し興奮しているから、というので、目が冴えてしまっている。ちょっと離れたところから、ブライのいびきが聞こえてくる。
どうにもならないので、見張りをしているクリフトのところへ行くことにした。
「姫さま、まだ起きてらしたのですか」
「眠れないのよ。何だかワクワクしちゃって」
それを聞いてクリフトは少し苦笑したようだったけど、すぐに優しい笑顔に戻って、私にホットミルクを作ってくれた。
焚き火を前にして、他愛もない会話をする。子どもの頃はああだったとか、サランのあの店はどうだとか、料理長が最近さらに太ってきたとか。
懐かしいな、この感じ。少し嬉しい。

ふとクリフトの方を見ると、少し襟元が緩められた服。鎖骨あたりにちらっと覗く鎖。
そういえば、亡くなったお母さまの形見のロザリオをずっとつけてるって言ってたっけ。
そう冷静に考える傍ら、その普段は見られない緩められた襟元から何故か目が離せなくなっている自分がいた。
「・・姫さま? 私の首に何かついてますか?」
あまりにもじっと見ていたせいか、クリフトが怪訝そうな顔をする。
「えっ・・あ、ごめん。その・・クリフトのお母さまのロザリオの鎖がちょっと見えてるな・・って」
嘘なんか言ってないのに、何で私こんなしどろもどろしてるんだろ。
「ああ。覚えていて下さってたんですか、母のロザリオのこと」
「う、うん。ずっとつけてるんだなって・・」
「ええ、決して高価なものではないのですが、何にも変えられないものですから」
そう言って優しく笑う。
ああ。以前のクリフトだ。優しいお兄ちゃんだった、あのクリフトだ。

「姫さま」
「ん?」
「あの、また昔のように、色々とお話ししてもいいでしょうか。子どもの頃のように」
・・え?
そんな事聞いてくるなんて、思ってもいなくて。
「当たり前じゃない。クリフトは私の幼馴染でお兄ちゃんなんだから。」
寂しい。距離をあえて置かれてたなんて。
「・・ありがとうございます。正直に申し上げますと、周囲から色々と言われていたのですよ。お前は乳兄弟だから特別だけれど、本来年頃の男子が姫さまに近寄るなど言語道断だと。教師を務められるだけでもありがたく思え、とも」
むかっ。何よそれ。誰よクリフトにそんな事言ったのは。
「ですので、姫さまにどのように接すればいいのか迷ったまま今日まで来てしまいました。ぎこちない態度でしたでしょうから、おそらく、不快に感じられていたのではないかと思いまして。」
クリフトはそう言って、少し照れ臭そうに頭をかいた。気にしてくれてたんだ。
「ううん、いいのよ、そんなこと。それにしても、クリフトを何だと思ってるのかしら。でも今はこうやって旅に出たから、そんな事はもう関係ないわよ。ブライには少し怒られるかも知れないけどね」
そう言ったら、クリフトは「そうかも知れませんね」と言って、少しいたずらっぽく笑った。
うん、もっといっぱい話そうよ。ずっと知ってると思ってたあなたの事、多分私は何も知らない。あなたも、私の事、知らないよね?
この空白の何年かの時間を、埋めていこうよ。
だから、話そう?
あなたの事、いっぱい知りたい。
私の事も、もっと知ってほしい。
ほら、もうこの冒険には、収穫があった。

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