DQW本編(短編・SS)

□I’m not in love
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僕がお城を離れて、半年くらいになるだろうか。
姫さまに手紙を書いた。
姫さまが生まれてからずっと、僕たちは兄妹のように過ごしてきた。姫さまは僕のことを兄だと思って慕ってくれる。
僕のこの手紙も、ちょっとした近況報告に過ぎないのだけれど。

寄宿舎では何とかやっている。
お城を出る日、姫さまからいただいた、小さな姿絵。
「私のこと忘れちゃイヤだよ」
だなんて。
これをもらったところでどうしようもなくて、とりあえずしおり代わりに大切な本に挟んでいる。
そんな事を言ったら「やっぱり返して」とか言われやしないかな。

僕から手紙を貰ったと、姫さまははしゃぐのだろうか。
それとも割とどうでもいいのだろうか。

僕はといえば、こんな調子で、可愛い妹のことをずっと考えている。
離れて生活したことがなかったから。元気かな、きちんとお勉強してるかな、苦手な人参食べてるかな。とか。

どうかしている。
何のために神学校に入ったんだ。

僕はいわゆる「編入生」にあたる。お城にいた頃は、お父さんが司祭ということもあり、それなりの教育は受けたが、学校には行っていない。
お父さんが亡くなって、サランの司教である叔父さんに引き取られ、神学校に入った。お父さんのおかげか、普通についていけている。
「さすがサラン司教・クラウス殿の甥なだけはあるな。飲み込みが早い」
と、よく褒められる。複雑な気持ちではあるのだけれど・・

お母さんのエミリアは女官であり、姫さまの乳母だった。お父さんのケヴィンはサントハイム城教会の司祭。姫さまほどではないが、僕も基本的にはお城の中しか知らない「世間知らず」だということを、ここ最近、嫌というほど知らされた。
3年前にお母さんが亡くなり、昨年お父さんが亡くなった。二人とも病気で。
お城の中で育ったのに、孤児となった僕は、周りの大人たちから嫌な言葉を投げかけられ続けた。
所詮は下衆な家の者。姫さまのお側にいることなど、身の程知らずも甚だしい。と。
決して下衆ではないと、ブライさまからは言われた。僕のお祖父さんは立派な政務官だったと。お祖父さんもまた、若くして亡くなり、お父さんと叔父さんは神の道を志したのだと教えられた。
「あやつらは家柄しか誇るものがないのじゃ。気にするな。おぬしの祖父は儂にとっても素晴らしい先輩であった。ケヴィンもクラウスも、立派な聖職者じゃ。案ずることはない。それにしても、ケヴィンは本当に惜しいことじゃった・・」
お父さんが生きている間は、さほど不自由は感じなかったが、亡くなった時の僕を取り巻く状態の変化は、今思い出しても寒気がする。
僕は、お城にいてはいけない存在なのか。故郷と言っても差し支えがないのに。

サランの叔父さんに引き取られると決まった時は、心底ホッとした。姫さまのことだけは気掛かりだったけど・・
姫さまは僕にとって大切な妹であり、友達でもあった。ずっと一緒にいたから、離れたらどうなるのかという不安があった。

だから、僕は手紙を書く。

たまに、いや、しょっちゅう僕の頭の中をよぎる姫さま。笑顔だったり、泣き顔だったり、怒っていたり・・
心配、なんだ。きっと。

泣き虫だった僕に、お母さんはよく言っていた。
「クリフト、男の子は泣いちゃダメよ。泣いちゃダメなの」
わかっている。泣いちゃダメだ。でも、姫さまを思うあまり、涙が出そうになる。

なんとなく、分かってはいるんだ。
こういう気持ちを何というか。

いや、違う。
こういう気持ちを姫さまに持つのは、僕には許されないんだ。

これは恋なんかじゃない。
僕は恋なんかしちゃいないーー

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