パトレイバー小説

□Fracture
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「抱かせろって言ったら、抱かせてくれるのか、お前?」
「できもしないこと、軽々しく口にするもんじゃないぜ」


つくづく、自分は最低だと思う。


篠原重工の贈賄疑惑。それに際し、俺は職務放棄をし、減俸を食らった。
「まあ、これくらいで済んで良かったよ」
とは隊長の弁だが、本当にその通りだと思う。
それでも俺は釈然としないものをずっと抱えていた。

そんな俺は、職場でもトラブルを起こした。
おたけさんにまで捻くれた態度をとってしまった。
そんな俺を、あいつは励ましてくれようとしたのに。
相談くらいいくらでも乗るから話してくれって、そう言ってくれたのに。

俺はそれを、無下にしてしまった。


「情けないよ」
あいつはこう言った。
「最低!」とか「馬鹿じゃないの?!」とか、いっそそんな感じで罵られた方が楽だった。
いや、おそらく普通の女だったらそう言うんだろう。
でもあいつは、持っていたバックパックでしこたま俺を叩きつけた。
そして、情けないと言って、泣いた。泣いてくれた。
俺が泣かせてしまった、とも言えるんだが。

いずれにしても。
大切な存在を蔑ろにしてしまったことは取り返しがつかない。



この問題が発覚した時。
あいつを守ろうとして、空回りして、裏目に出て、コンビ解消させられて……

俺があいつに与えてしまっていた、疎外感。
俺の独りよがりで。

馬鹿みたいに傷つけた。
関係を壊してしまった。


そう。
何より大切、なのにな。

結局、今迄俺はあいつに甘えてただけだったんだ。



寮に戻る。
ビールを一缶、飲み干す。

……このままじゃ、ダメだよな。

俺のためにも。
職場のためにも。

あいつのためにも。


なんの償いにもならない。
そんなことはわかっている。

それでも俺は、ケリをつけに行く。
結果はどうなるかは分からない。


このままじゃ、ダメなんだ。



翌朝。
「お、篠原珍しく早いじゃないか」
「ああ、ちょっと出かけるんでね」
「そうか。ま、気をつけろよ」

俺は電車に乗って、篠原重工本社へと向かった。

ケリをつけるために。


あいつに、もうあんな思いをさせないために。



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