パトレイバー小説

□Detour
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ここは北海道・苫小牧。
あたしは逃げてきた。
あたしはもう、遊馬の単なる同僚とか友人ではいられなくなってしまった。この気持ちに、気付いてしまっていたから。

気持ちに気付いたのは、遊馬が警官を辞めるって教えてくれた時。
警官としての遊馬も好きだった。でも、「どこにも負けない、史上最高のレイバーを作る」という人生の目標を見つけた遊馬は、本当にカッコよくて、もっともっと好きになってしまった。それが恋愛感情だと気付くのに、時間はかからなかった。
遊馬が退官する日。あたしは絶対に泣かないって決めてたのに。あたしが辛そうな顔をしていたのか、遊馬が慰めてくれた。
「そーんな顔すんなよ。同じ東京都内なんだぜ? 時間が合えば会えるし、また飲みに行こうぜ」
そう言ってあたしの頭をポンポンしてくれて、あたしは大粒の涙をこぼしてしまった。

あれから、お互いに休みがなかなか合わなくはなったけれど、それでもたまに合う時には遊びに行ったり飲みに行ったり。それこそ会うのは月に一回あるかないかだったけど、普通に仲のいい友人として過ごしていた。あたしはもちろん嬉しかったし、遊馬も割と楽しそうだった。
「二部?遊馬、大学行きなおしてるんだ」
「そ。本格的に開発の仕事しようとしたら、絶対必要だからな」
「理工系なんだ」
「うん。そもそも理系人間だし、面白いぞ」
「え、でも、そんな時間……」
「俺、正社員じゃねーもん」
「……え?」
「契約社員なんだ。非正規雇用ってやつ。その分、時間の融通は利く。給料は安いけど、こればっかりはな」
「そんな、遊馬みたいな人が……」
「だからこそだよ。そりゃじっちゃんとかには色々言われたさ。でも、今は最高のもの作るための下積み期間だ。親の七光りとか絶対言われたくないからな。で、大学出たら、正社員として開発の仕事に携わる。コネとかじゃなくて、一般入社試験受けるからな。就職難だってのは分かってるけど、ここで負けるわけにゃいかねーんだよ。それでも色々言われるだろうし、変に気を回されるかもしれねーけど、俺はそれを突っぱねるくらいの実力をこの4年間でつけるつもりだ」
本気だ。遊馬は本気なんだ。
どうしよう。惚れそう。いや、惚れてるんだけど。惚れ直すってこういうことなんだ。
それと同時にあたしは遊馬には釣り合わない、という気持ちが強くなってしまった。

それからも、遊馬とはずっと付かず離れずの関係が続いた。その関係はそれなりに心地よくて、もうこのままでいいかな、なんて思っていた折、あたしに辞令が出た。
「泉野明巡査。警備部特科車両配備課への異動を命ずる」
……それって。
レイバーに乗る仕事ではなくなるってこと……?
あたしはレイバー乗りとして警察官になった。それ以外の仕事ができるとは、思っていない。
配備課っていうと、事務的な、いわゆる内勤のお仕事。もちろん、すごく大切で重要な仕事だってことは分かってる。でも。それでも……

「辞める、か」
「申し訳ありません。私が警察でできる仕事はもうないと判断いたしましたので」
「……うん、分かった」
辞表を提出する際、あたしは自分でも驚くほど冷めていた。本当にあたしなんだろうか、と思う程に。

「……そうか、辞めるのか」
それから程なくして、遊馬と飲みに行ったときに、辞表を提出したと告げた。
「これからどうすんだよ。レイバーに乗れないのが嫌で辞めるんなら、レイバーに乗れる仕事を探すつもりなんだろ?」
「うん……ちょっとゆっくり考えてみようと思ってさ」
「……どうだ?篠原重工」
「え?」
「いい話かも知れないんだ。テストパイロットを募集するって話があるんだよ。お前なら一発で採用だ。開発部全員が喜ぶよ」
篠原重工の開発部。そうすれば、また遊馬と一緒に働ける……?
あたしはかなり揺れた。いや、その時は篠原重工で働きたいと思ったかもしれない。
でも。
考えれば考えるほど、あたしは遊馬に近づいちゃいけない、そう思えてきた。
あたしは元警官の、単なる酒屋の娘のレイバー乗り。
遊馬は、篠原重工の御曹司で、将来は必ず開発の主軸を担う人物。
……釣り合わない。単なる同僚でもいられない。もう友だちでもない。
あたしなんかが遊馬と一緒にいたら、邪魔になる。
あたし、遊馬と一緒になんていられない……
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