赤井家

□1:父子再会
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 そのマンションは外観からもわかるように、高級だった。コンシェルジュはいないがオートロックや監視カメラが24時間稼働していて、地下駐車場には警備員も常駐していた。

 秀一はエントランスホールで白峰の部屋番号を押して呼び出す。

「…」

 しばらくしてからスウッと扉が開いた。無言だったがエントランスを開けられたという事は、入室を許されたのだ。秀一は急いでエレベーターで最上階へ上がっていく。

「…」

 秀一は部屋の扉の前でいつになく緊張した。白峰と秀也に直接会うのは約8年ぶりだ。当時秀也はまだ3歳だった。

 懐から1枚の写真を取り出す。

 2年ほど前、キャメルと共に例の組織からアメリカへ撤退する時に、白峰たちも一緒に連れて行こうと当時妻子たちが住んでいたマンションを訪れたら、すでに行方をくらませた後だった。

 置き手紙としてこの写真が1枚残されており、そこには白峰と、9歳になった秀也が写っていた。

 裏面には2人の筆跡で《日本で待ってるわ》《また一緒に暮らそうね、父さん》と記されている。

(白峰、秀也…)

 秀一は写真をしまった。意を決して、静かに呼び鈴を押す。ほどなくしてカチャリと解錠する音がし、扉が開け放たれる。

「お帰りなさい、秀一」

「!!!」

 そこには、写真でいつも見ていた白峰がほほえんでいた。秀一は即座に抱きしめる。

「白峰…!」

 積もる話はたくさんある。聞いてほしい事や知りたい事も山ほどある。自分の前から二度も姿を消した恨みもある。それでもなお溢れてくるのは、再び会えた感動と生きていてくれた感謝と、胸を焦がすほどの狂おしい愛情だった。

「ちょっと秀一、痛いって…」

 白峰は秀一の腕をパシパシと叩いた。少々力任せに抱きしめたからだろう。でもこれくらいは許してほしい。

「もっとよく顔を見せてくれ…」

 秀一は白峰の両ほおを自身の両手で優しく包んだ。身をかがめる。

「ますます綺麗になったな」

 フッとほほえむ。額を合わせて瞳を閉じ、唇を重ねる。

 白峰の匂いも感触も、8年前と何ひとつ変わっていなかった。

「ん…。とりあぇ、…んっ扉、鍵…」

 白峰が手首を掴んで抵抗してくる。こんなヤワな力では自分はびくともしない。

「白峰…」

 秀一は白峰の後頭部と腰に手を回した。夢中で何度も口づけし、舌を侵入させる。

「ふっ…、ぅん…」

 白峰は秀一を止めるため、彼の長髪を指に絡めた。引っ張る。

「!」

 秀一は唇を離した。眉間にしわを寄せる。

「…どういうつもりだ?」

 白峰は左手で秀一の口を塞いだ。

「ちょっとストップ。まずは玄関上がって。色々お互いのことを話しましょうよ」

「…」

 秀一はさらに眉根を寄せた。舌で白峰の手のひらを舐める。

「あっ、もう!」

 白峰は今度は自身の口を塞いだ。くぐもった声で訴える。

「話が先!」

 しばし睨み合いの末、秀一が折れた。

「………………わかった」

「ったく」

 白峰は呆れた。玄関に鍵をかける。

「お腹空いてない?」

「食べる」

「りょーかい」

 白峰はスタスタと廊下を歩き、奥のLDKへ進んだ。秀一もついて行く。

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