浅草火消しの御前様(原案ver.)
□参
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その店は通りに面した広い建物で、屋内は若い女性たちで賑わっていた。背の高い厳つい女性店員たちが優しく接客している。
1歩足を踏み入れると、低くとも心地良い声で「いらっしゃいませぇ〜」と声がかかった。花の香りがさりげなく漂っていて、内装も淡い色が多くレースやフワフワの綿を使ってファンシーにメルヘンチックに仕上げている。
紅丸は店の奥のレジに進んだ。商品棚には白粉や口紅をはじめファンデーションや美容液や椿油、香水、匂袋、洗顔料、手や全身用のクリーム、シャンプー、リンス、櫛、髪ゴム、石鹸、化粧水や乳液、美容液などの基礎化粧品類、目元を飾る色とりどりのパレットやマニキュアの小瓶などが綺麗に並んでいる。
「よォ。サチオいるかァ?」
紅丸は前の客の会計が済んでから勘定係のゴツい女性店員に話しかけた。屈強な体躯の短髪の女性店員が紅丸と、その隣の太閤秀吉に眼をやる。
「あらァ紅ちゃんじゃない。その娘が2年越しの奥様?」
「おう」
「こんにちは」
太閤秀吉は挨拶をした。女性店員が口許に手を添えて眼を丸くする。
「あらヤダ丁寧。ちょおっとこの娘は“紅子チャン”には勿体ないんじゃなぁい?」
「うるせェ。俺は“紅子チャン”じゃねえ。早くサチオ呼びやがれ」
紅丸は眉間に皺を寄せて女性店員に凄んだ。女性店員は紅丸の眉間に人差し指を当てた。グイグイと押す。
「やぁねえ怖い顔。折角の美丈夫が台無しよ。ママなら今お花を摘んでるの。もう少し待っててねん♪」
「…フン」
紅丸はムスッとして女性店員の手をやんわりと払うと、太閤秀吉を連れてレジを離れた。女性店員が「次でお待ちのお客様ぁ〜」と精算を始める。
紅丸と太閤秀吉は客のいない商品棚の前にたむろした。
「……あの。紅丸さん」
太閤秀吉は小声で質問する。
「ここの店員さんたちって…、女装ですか?」
辺りを見回す。長い髪をキッチリ結って化粧を施し女性用の着物を着ているが、どう見ても女性客たちよりも上背があってガッシリしていて、手指も節くれ立っている。頬や口周り、顎などに黒いポツポツとしたものが生えている女性店員もいる。
紅丸は頷いた。
「2丁目はな、釜と鍋と美容の街だ」