浅草火消しの御前様(原案ver.)
□弐
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「ふざけるのも大概にしろ」
紅丸は舌打ちした。今度は別の髪を一房取って、太閤秀吉の頭を逆方向に傾けさせる。
「では『新門さん』のままで…「馬鹿かテメエ」」
「…」
太閤秀吉は黙った。頭を正面に戻す。
「…でしたら、何て呼べば良いですか?」
「名前で呼べ」
「…紅丸大隊長」
「阿呆か」
「大隊長」
「“名前で”っつったろォが」
「…貴方は上司でしょう。第7特殊消防隊の大隊長ですよね?」
「その俺の命令が聞けねェってかァ?」
太閤秀吉の髪をサクサクと編み込んでいく。
「横暴です。パワハラで訴えますよ?」
太閤秀吉は手鏡越しに紅丸にジト眼を向けた。紅丸は鼻で笑う。
「ハッ。その前にグズグズに蕩かしてやンよ」
「…セクハラも追加ですね」
「うるせェ」
紅丸は最後に意を決して簪の箱を開けた。1輪の大振りの白薔薇を太閤秀吉の髪の左側にそっと挿す。
「ホラよ。完成だ」
「えっ、あっ。ありがとうございます」
太閤秀吉は手鏡を右に左にあちこち回して感嘆する。
「わぁ…。凄いです。綺麗…。手先が器用なんですね」
白薔薇の簪を映す。幼女向けのアクセサリーにしては繊細で手が込んでいて、品がある。とても大量生産の廉価品とは思えなかった。
「簪までありがとうございます。何か、今の時代のアクセサリーって高級感がありますね。ヒカゲちゃんやヒナタちゃんにもこういうのを付けてあげてるんですか?」
太閤秀吉の発言に紅丸は素っ頓狂な声をあげた。
「ハァ!? 何言ってやがる!!! これはお前ェに渡すつもりで職人にっ…!!」
と言いかけて、紅丸は口をつぐんだ。大きく息を吐く。太閤秀吉の肩口に顔を埋めて彼女を後ろから抱き締める。
「……セクハ「まァ聞け」」
太閤秀吉は黙った。手鏡を持ったまま両手を膝の上に置く。
紅丸は告げた。
「…浅草じゃアな、男が好いた女に簪を贈る風習があンだよ。皇国で言う“プロポーズ”だ」
ピシリ、と太閤秀吉は身体を強ばらせた。
「………………あの。これはそういう意味の簪ですか?」
「違ェ。いきなり順序すっ飛ばす奴があるか。俺を何だと思ってやがる」
紅丸は否定した。
「で、ですよね…。スミマセン」