浅草火消しの御前様(原案ver.)
□壱
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「……」
調査書を一通り読んだ紅丸は紺炉に押しつけた。顎に手を添えて、彼女を探るような眼つきで見やる。
紺炉も調査書を読む。
「…これァ、」
驚いた顔で氷を見つめる。
氷の成分は4種類。老年男女と中年男女の体液だ。そして中年男性は、老年男女の息子だ。
紅丸は呟く。
「…何者かが家族を使ってコイツを氷漬けにしたか、あるいは、コイツ自身が家族を使ったか、のどっちかだ」
舌打ちする。「胸糞悪ィ…」と頭をガシガシと掻く。
「…まるで人体発火の逆のような印象ですね」
人間の身体を氷に変えて人を冷凍保存する。彼女を守るために誰かがそうしたのか、彼女自身が己を守るためにそうしたのかでは、意味が違ってくる。
「どっちにしろ、彼女自身が目覚めねェとどうにもならねェですね」
「ああ」
紅丸はため息をついた。「クソ…」とこぼす。
紺炉は苦々しく顔を歪める紅丸と、氷漬けで眠る女を見やった。才能溢れる若き火消し若頭の恋路は、あまりにも険し過ぎる。
重苦しい空気をまとっていると、蔵の外から軽快な足音が2つこちらに近づいて来た。
扉から同じ顔の幼女がピョコと覗く。
「若見っけ!」
「仕事サボりやがってコノヤロー!」
「いい大人が何やってんだ!」
「この甲斐性ナシ!」
髪を団子にして黒い着物を着た幼女たちは扉から口々に悪態をついた。中に入らないのは、この部屋の主が紅丸にとって大切な人だと判っているからだ。
「あァ、今行く」
「「!」」
紅丸の返事に双子は顔面蒼白した。
「若が壊れた…」
「ついにイカれやがった…!」
と互いに抱き締め合って全身をガクガクブルブルと震わせる。
「オイお前ェらなァ」
紅丸が呆れて扉に近づくと、双子は突如「「あ!」」と眼も口もあんぐりと開けて紅丸のほうを指差した。紅丸はピクリと片眉を跳ねさせる。
「ヒカゲ、ヒナタ。人を指差すモンじゃねえ」
紺炉がため息混じりに注意した。調査書を封筒にしまう。
「「違っげェよ! 氷!! 融けてんぞ!!」」
「「!?」」
双子の言葉に紅丸と紺炉は眼を瞠った。慌てて振り返る。