浅草火消しの御前様
□肆
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ガタッ、ガタッと鳴った襖の合図を受けて、銀磁は立ち上がった。招待客たちに一礼し、拡声器で声を張る。
「本日はお忙しい中、我らの姐さんのためにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」
ざわついていた大広間がピタリと静かになった。皆が銀磁の方を見やる。
「ただ今より、我らの姐さん・水鏡太閤秀吉の快気祝い並びに歓迎会、そして御披露目会を開催したいと思います。本日の司会進行を務めさせていただきます、私、第7特殊消防隊小隊長・銀磁です。皆様、宜しくお願い致します」
銀磁がお辞儀する。大広間に拍手が響いた。
「イヨッ、銀磁!」「キマッてるねえ!」
招待客たちから歓声が上がる。出だしを上手くやれた事で銀磁は度胸がついた。
「それでは、“浅草の破壊王”こと第7特殊消防隊大隊長・新門紅丸ならびに我らの姐さん・水鏡太閤秀吉と中隊長・相模屋紺炉、ヒカゲ、ヒナタの入場です。皆様、拍手でお迎えください」
案内役の隊員がスッと襖を開く。大広間の隊員たちや招待客たちが拍手で迎える。
5人が入室した後、案内役の隊員もささっと大広間に入ると、襖を閉めて自席に戻った。フウッと一息ついて拍手をする大勢の中に混じる。隣の隊員が「大役お疲れさん」と労う。
5人は太閤秀吉を中心に右に紅丸、紺炉と並び、左にヒカゲ、ヒナタと並んだ。5人の後方には紺炉が活けた大きな花瓶が2つ。5人は上座に整列すると、太閤秀吉に合わせて深くお辞儀した。拍手が鳴り止む。
「うっ…」
太閤秀吉は奥までズラリと並ぶ招待客たちに眼を向けて、息を呑んだ。末席なんて遠すぎて顔が判別できない。そして隊員たちと招待客たちの全員が、無言でジイーッとこちらを注視している。
「大丈夫だからな」
紅丸は横目で太閤秀吉をチラリと見やった。小声で諭す。
「皆お前ェを歓迎してるんだ、気楽にいきな」
「は、はい」
太閤秀吉は紅丸の紅い瞳と眼を合わせてから、眼を閉じてフウッと息を抜いた。眼を開け、スッと正面を見据える。
その様子に紅丸はフッと口角を上げた。紺炉も、心配はなさそうだと思って視線を正面に戻す。双子はあまり緊張していないのか、「コレ旨そうだぞ」「早く食いてェなぁ」とそれぞれ小さな声で足元の食膳を眺めてニヒヒと笑っている。
「始めに、第7特殊消防隊大隊長・新門紅丸よりご挨拶を申し上げます」
銀磁が拡声器で喋る。拡声器を外し「若、お願いします」と頭を下げる。
紅丸は銀磁に軽く頷いてから正面を見据えた。声を張る。
「今日は忙しい中、太閤秀吉のために集まってくれて感謝する! 見ての通り太閤秀吉は無事に回復し、皆に紹介できるようになった! この日を迎えられた事を嬉しく思う! コイツァ皇国の生まれで浅草の事を何も知らねェ! 不慣れな事も多いだろォから、皆で浅草の流儀を教えてやっちゃあくれねェか! 今夜は今まで心配してくれた皆への礼と太閤秀吉の歓迎会を兼ねた宴だ、お前ェら大いに食べて飲んで、楽しむぞ!!」
「「「おおーっ!」」」「さすが紅ちゃん!」「ヨッ、色男!」
指笛や歓声と共に拍手が響き渡る。それらが引いてから銀磁は拡声器で会を進行する。
「大隊長ありがとうございました。続きまして、我らの姐さん・水鏡太閤秀吉よりご挨拶を申し上げます」
銀磁はススッと上座に近づき、太閤秀吉に拡声器を渡した。頭を下げる。
「電源は入ってますんで、そのままお話しください」
「ありがとうございます」
太閤秀吉も軽く頭を下げて拡声器を受け取ると、大広間に向かって一礼し声を出した。