浅草火消しの御前様

□参
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「「今帰ったぞー」」

 双子が寺子屋から帰還した。貢ぎ物の駄菓子がパンパンに詰まった、大きめのクリーム色のキャンバス生地の鞄を肩から斜めに掛けている。しかし、表玄関の暖簾をくぐっても彼女たちを出迎える者は誰もいなかった。

「「???」」

 2人は顔を見合せて首を傾げた。奥からはドッスンバッタンと派手な物音と、野郎共の怒号が聞こえる。

「危ねえだろうがコン畜生!」「コレ邪魔だ、どかせ!」「アレどこやった?」「アレじゃ分かんねーよ!」

「皆何やってんだ?」

「大掃除か?」

 分からない事だらけである。

 とにもかくにも紺炉の顔だけでも見ようと双子は玄関を上がった。トコトコと奥に進む。

「「紺炉ー?」」

 物音が一番大きな大広間を覗く。襖を開けると隊員たちが箒に塵取り、サッシブラシ、雑巾、バケツを用意して隅々まで丁寧に掃除をしていた。

「大掃除だな」

「だな。何でだ?」

「さあ?」

 双子は互いに顔を見合って小首を傾げた。襖を外され、2部屋の大広間を1つに連結された巨大な畳の空間を眺める。小隊長・銀磁の指揮の下、隊員たちが畳の目から障子の組子の1本1本に至るまで、丁寧に埃を取り除いていた。縁側の先の庭では八間の手入れをしたり、金属製の篝火台を用意する隊員もいた。

「若と姐さんに恥をかかせる訳にはいかないからな! 皆細かい所まで綺麗にするんだぞ!」

「「「「「へい!」」」」」

 “若と姐さん”と聞いて、双子はニンマリと顔を見合わせた。銀磁に駆け寄る。

「「銀磁ー!」」

「おぐっ!?」

 銀磁は幼女2人の体当たりを受けてよろめいた。体勢を立て直す。

「大広間なんて掃除して何すんだ?」

「姉御の快気祝いか? 歓迎会か?」

「「まさか祝言か!?」」

 話が飛躍する双子に銀磁は苦笑した。

「ヒカヒナお帰り。今夜は姐さんの快気祝いと歓迎会を兼ねて、町の皆に御披露目会をするんだよ」

「「おおっ!!」」

 双子はキラキラと瞳を輝かせた。

「それで大掃除か!」

「何十人呼ぶんだ?」

 銀磁は中空を見上げた。

「ん〜、代表者500人くらいかなぁ」

「「スゲー!!」」

 双子が興奮する。

「さすが若だな!」

「人望の厚さが半端ねえ!」

 2人でひたすら「「若スゲー!」」と連呼した。銀磁も頷く。

「料理は紺炉さんがシキさんたちに頼んだから、今夜は旨い物がたくさん食えるよ」

「「マジか!! やったあ!!」」

 双子はハイタッチをした。身を乗り出す。

「「何か手伝う事ねェか?」」

「じゃあ紺炉さんのほう手伝ってくれる? 奥の空き部屋にいると思うから」

 銀磁は、紺炉のいる部屋の方角を指差す。

「「合点だ!」」

 双子は大広間を出て、駆け足で紺炉の元へ向かった。

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