赤井家

□4:サバゲー
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「ふう…」

 秀也は帰宅するなり両手の紙袋をソファー前のローテーブルに載せた。ランドセルをソファーに下ろす。

「…本当に凄い量だな」

 秀一も段ボールを1箱、ローテーブルの足元に置いた。中身は全て、息子・秀也への別れの品である。

「父さんも母さんと付き合う前はこんなだったの?」

 秀也は台所で手を洗った。秀一も続く。

「…ノーコメント」

「ふぅん。後で仕分けしないとなぁ…」

 秀也は面倒くさそうに息を吐いた。冷蔵庫を開ける。

「気に入った子はいなかったのか?」

 秀一は煮出した茶のボトルを出すと、コップを2つ用意した。注ぐ。

「いくら“死ぬ”とはいえ、恋愛までは禁止されてないだろう?」

「まあそうだけどさ…」

 秀也はプリンを出した。

「…女子ってすぐに眼の色変えるから苦手」

 ダイニングテーブルに座る。秀一もコップを運んだ。

「そうでもない女もいるさ」

「…例えば母さんとか?」

 秀也はプリンを食べる。

「ハハッ、1本取られたな」

 茶を飲む。

「父さんと母さんってさ、留学先で出会ったんだよね?」

「ああ。アメリカの高校でな。…白峰は今も日本語以外は話せないのか?」

「さあ? ここじゃ日本語以外はほぼ使わないから」

「そうか…」

 秀一は考え込んだ。白峰は出会った当初から“制約”で日本語以外を話せずにいた。読み書きとリスニングには問題がないが、スピーキングはできなくなっていて、話せてもカタカナ英語で発音が壊滅的だった。

「“制約”についてだが」

「うん?」

 秀也はプリンを食べながらチラリと斜め前に視線を上げた。

「お前もいくつかあるんだよな?」

「…まぁね。母さんの比じゃないけど」

「それは時限式か? 一生か?」

 秀一は美味しそうにプリンを食べる秀也を見やる。スプーンを咥えて少々眉間にシワを寄せ「うーん…」と唸る姿は、やはり11歳の子供にさせる表情ではない。

「今のところは時限式かなぁ…」

「しかしお前は、白峰の分も少し背負ってるのだろう?」

 秀一は畳み掛ける。

「あぁ、うん。3歳でアメリカを出る時にね」
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