赤井家

□3:転校
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「ね、秀也」

 今夜も家族3人、ダイニングテーブルで夕食を食べていた。

「今週中には転校してもらうから。そのつもりでいてね」

 食卓には肉じゃがをメインにサラダに吸い物が並ぶ。

「…ぇ、もう?」

 秀也はパチクリと眼を瞠った。箸からポロリとじゃがいもが転げ落ちる。

「…差し迫った状況なのか?」

 白峰の左隣で吸い物の椀に口をつけていた秀一は、妻に眼をそばめた。

「んー、まあ、まだ大丈夫ではあるんだけどね…」

 白峰はサラダを食べ始めた。

「…ねえ母さん。普通に転校するだけじゃダメなの?」

 秀也は茶碗を左手に持ちながら、右手の箸で肉じゃがを食べた。先ほどのじゃがいもは運良く肉じゃがの皿の中に着地していた。

「無理ね」

 白峰は吸い物を飲む。

「何でさ?」

 秀也はサラダをしゃくしゃくと噛む。

「――公安が迫って来てるわ」

「え、何で!?」

 秀也は驚愕した。

「公安とはお互いに不干渉・無関心でって約束したんじゃないの?」

「――その約束をしたのはラノベ小説家の時でしょ。でももうラノベ小説家とその息子は書類上死んでるわ」

 白峰はパクパクと肉じゃがを口に放った。

「そんなの屁理屈だよ!」

 秀也は箸を持ったままテーブルをダンッと叩いた。

「あの人、あのまま生きてたらオレたちを人質にしようと考えてたくせに…!」

 顔を歪める。

 秀一は茶碗と箸を置いた。

「秀也、すまない」

 頭を下げる。

「これが最後だ。白峰に従ってくれるか?」

「――顔を上げてよ。父さんのせいじゃないじゃん」

 秀也はうつむいた。

「母さんが最後だって言ってるんだから本当に最後なんだろうけどさ…」

 拳をギュッと握る。

「――オレたち、いつまで逃げればいいの?」

「…すまない」

 秀一が謝る。

「だから父さんのせいじゃないでしょ!」

 秀也はガタンと席を立った。

「寝るっ!」

 ドスドスと足を踏み鳴らしてLDKを出て行く。

 残った秀一はため息をついた。垂れた前髪をかき上げる。

「…キツいな」

「…うん。それでも生きてほしいからね。生きて、幸せになってほしいもの」

 白峰は茶を飲んだ。

「親のエゴよ」

「…それはエゴじゃなくて愛情だろう?」

 秀一は右手で白峰の肩を引き寄せた。そのまま、彼女の頭をなでる。

「…うん」

 白峰は身を委ねた。眼を閉じる。秀一も首を倒して彼女に身を預ける。

「お前は良い母親だよ」

「秀一こそ、良い父親よ」

「――俺たちが、必ず決着をつける」

「うん」

「もう少し、待っていてくれるか?」

 秀一の言葉に白峰はふわりと微笑んだ。

「うん。秀一、大好き。愛してるわ」

「俺も愛してるよ、白峰」

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