赤井家
□2:ジョディ邂逅
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グシャ。
「…」
秀一は左手の上で潰れた卵を呆然と眺めた。混ざっていない白身と黄身が手のひらをベタベタにし、白い殻が粉々に砕けてシンクに落ちる。
秀一は水を出した。手を洗う。ため息をつく。
(やはりレトルトかインスタントか…)
早々に調理を放棄する。
冷蔵庫を開けた。昨日買い込んだ食材がギッチリ詰まっており、どれをどう使っていいのか皆目見当がつかなかった。
「おはよ」
冷蔵庫を開けたまま思案していると、秀也が起きてきた。
「おはよう。お前たちは朝はいつも何を食べてるんだ?」
息子にバトンタッチする。
「母さんは?」
秀也はキッチンに入った。シンクで卵の惨劇を目の当たりにする。
(料理は苦手なんだ…)
秀一は引き下がった。
「もう少し寝かせてやろうと思ってな」
「ふ〜ん。父さんはいつも朝は何食べてたの?」
秀也は冷蔵庫からヨーグルトを出し、小鉢に2人分を盛った。
「…俺は、朝は食べたり食べなかったりだったな」
秀一はランチョンマットを敷き、小鉢をダイニングテーブルに運ぶ。
「だから今は助かってるよ」
目元を緩める。
「ふぅん…」
秀也は食パンをトーストした。FBI捜査官という職業柄、多忙すぎてあまり落ち着いて食べる事ができなかったのだろう。
もっとも、この父親の場合は食に関心がなさそうでもあるが。
「…母さんってさ、隠し事多いよね」
秀也はグラスを出し、スムージーを注いだ。
「ああ。ちゃんと気づいて聞き出さないと、いつの間にか遠くへ行かれてしまうからな」
秀一はグラスをそれぞれの場所へ置く。
「それに独断専行が酷すぎる」
グッと眉間にシワを寄せる。秀也は笑った。
「ははっ。ホント1人で何でも決め過ぎだよね」
「全くだ」
秀一は肩をすくめた。
「…オレたちさ、」
秀也は野菜室から林檎とバナナを出した。
「近々“死ぬ”と思うんだよね」
「何?」
秀一は隣でバナナの皮を剥きながら眼を瞠った。
「昨日母さんにそれとなく言われたよ。転職もしてたからたぶん確定だろうね。正確な日付はわかんないけど」
秀也は包丁でシャリシャリと林檎の皮を剥いていく。
「――またいなくなるつもりか?」
秀一は声を低くした。