赤井家
□1:父子再会
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秀一は例の組織を追って、再び日本に入国した。潜入捜査を終えて実に2年ぶりのことである。
(さてと…)
まずはベースとなる隠れ家の確保だ。上司のジェイムズからいくつか提示されたが、全て断った。潜伏先はもう決めてある。
秀一は懐から文学雑誌を取り出した。裏表紙の発行元の住所をたずねる。
(今度は経済小説家か…)
ラノベ小説家からの見事な転身だ。そのうち、彼女ならオールジャンルを制覇しそうだ。
(ま、そう何度も消息不明になってもらっては困るがな…)
クスリと笑みを浮かべて懐に戻す。人気のない静かなビルを、ライフルバッグを背負ったまま階段で上がっていく。
目当ての編集部は消灯され鍵がかかっていた。ピッキングで開けて、するりと室内に滑り込む。
荒らした形跡が残らないように経済小説家・伊保仙人の住所を探す。
もちろんこれは筆名だ。今の本名の苗字は変わっているだろうが、名前まではそう変わらない。ありふれた名前であっても自分には特別な名前だ。
(見つけた…!)
ファイル内の彼女の名前を、手袋をつけた指でなぞる。触れながら、部屋番号まで記憶する。今の彼女は田中白峰と名乗っているようだ。
「…」
自然と口角が上がっていく。
秀一はパタンとファイルを閉じた。全てを元通りにして、編集部を去る。
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