浅草火消しの御前様(原案ver.)
□肆
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隊員は女部屋の襖の前で声を上擦らせた。
「し、失礼しやす!」
気づいた紺炉が腰を上げる。襖を開けた。
「おう。準備できたか?」
「へい。皆さんで大広間にお願いしやす」
隊員は腰から頭を下げた。紺炉は頷くと、振り返って中に声をかけた。
「若、お嬢。時間です」
「おう」「はい」
紅丸は立ち上がると、握ったままの左手を引いて太閤秀吉を立たせた。太閤秀吉が礼を述べる。
「ありがとうございます」
「ん」
紅丸は太閤秀吉の頭をポンポンと撫でる。双子はクスクスと笑った。
「若、よっぽど姉御を離したくねェんだな」
「垂れ目がさらに垂れてやがる」
「何か言ったかァ?」
紅丸は双子を睨み下ろした。双子はサッと己の口を塞いでブンブンと首を横に振る。太閤秀吉は口許に手を添えて笑った。
「ふふっ。ヒカゲちゃんヒナタちゃん、口紅落ちちゃうわよ」
「「!」」
双子は口を真一文字に引き結んで両手を下ろした。パタパタと部屋を出る。
「…ったく。無口になりゃいいってモンじゃねェのによォ」
紅丸は呆れた。太閤秀吉はまだ笑っている。
「ふふっ。ヒカゲちゃんもヒナタちゃんも可愛い」
柔らかく笑う太閤秀吉に、紅丸は目尻を下げた。改めて左手を差し出す。
「行くぞ」
「はい」
太閤秀吉は紅丸の左手に右手を乗せた。紅丸は太閤秀吉の手を優しく包んで引いて行く。
隊員が、心を尽くして太閤秀吉に接する紅丸に感服する。
紺炉は行灯の明かりを消した。部屋を出て襖を閉める。隊員の案内で紺炉、紅丸、太閤秀吉と続き、最後尾を双子がついて行く。
大広間の襖の前に到着すると、隊員が襖をガタッ、ガタッと鳴らした。それが合図となり、大広間では拡声器を使って司会進行役の銀磁が声を張る。
「えー。本日はお忙しい中、我らの姐さんのためにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」
ざわついていた大広間がピタリと静かになった。
○×○×○×○×○×
【完】