浅草火消しの御前様(原案ver.)
□肆
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双子が襖を左右にスパーン! と開けた。扉の開け方は今朝の障子と同じで豪快だ。「前より広ェな!」「遊び放題だぜ!」と室内をグルグルと楽しそうに駆け回る。
太閤秀吉は襖の前で苦笑した。隣の紅丸はバツが悪そうに頭を掻いた。
「悪ィな太閤秀吉。男所帯だからかお転婆に育っちまって…」
「子供は元気なほうが良いですけど、ちゃんとした所作も身に付けさせたほうが良いですよ?」
双子に続いて太閤秀吉も自室に入った。紅丸は言葉を詰まらせ背中を丸めた。両腕を火事羽織の袖の中に組んで隠す。
「……悪ィ」
「まぁ、そういうのは相模屋中隊長が教えてそうですけどね」
太閤秀吉は振り返って紅丸を見上げた。紅丸は襖の前に佇み明後日の方向に視線を流す。
「…まァ、一通りはな」
「誰かさんに似たんですね」
太閤秀吉はクスリと笑った。双子は走り終わり、次は壁一面に並んだ新しい箪笥や化粧台、姿見、呉服屋から納品された帯揚げや帯締め、足袋などを「凄ぇ綺麗だな!」「どれも豪華だなあ!」とまじまじと眺めていた。太閤秀吉は双子の元へ行く。両膝に両手をついて屈む。
「それ、紅丸さんに買ってもらったのよ」
「「マジか!」」
「うん」
振り返った双子が驚き、廊下に佇む紅丸に尊敬の眼差しを送る。
「「嫁入り道具か…!」」
「まだ違ェ」
紅丸は息を吐いた。太閤秀吉を見つめる。
「入っていいかァ?」
「どうぞ」
太閤秀吉の許可を得た紅丸は、彼女の自室に入った。腕を組み、襖を背に控える。
太閤秀吉は帯締めなどを箪笥にしまうと、双子に話しかけた。
「ヒカゲちゃんとヒナタちゃんの箪笥も一緒に並べよっか」
「「合点だ!」」
双子はパタパタと襖から廊下に出ると、近くの部屋に駆けて行った。太閤秀吉と紅丸も続く。