浅草火消しの御前様(原案ver.)

□参
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 通りは髪結いや美身、艶肌、化粧、爪磨きなどの看板が並んでいた。往来を歩くのも若い女性たちばかりである。

「あっ、火消しの紅丸さんよ!」

「はぁっ…、格好良い…」

 道を行く先々で黄色い声が飛ぶ。彼女たちは隣の太閤秀吉と、紅丸に繋がれた手を見て感嘆する。

「あの娘が紅丸さんのご夫人ね」

「あれ? 何か意外と普通の娘よね?」

「あ、見て。白薔薇よ。もう簪を受け取ってるのね」

「2年も看病されるなんて、愛よねぇ〜」

「いいなぁ〜。私も紅丸さんみたいなイケメンに愛されたぁ〜い」

 女性たちはポッと頬を染めては友人同士でキャッキャッとはしゃいだり、うっとりしていた。太閤秀吉はそっと紅丸の側に寄る。

「…モテるんですね、紅丸さん」

 小声で呟く。紅丸の横顔をジッと見つめる。

「まァなァ」

 紅丸は喉の奥でクツクツと笑った。横目で太閤秀吉を見やる。

「何ならここで『お前ェは俺のモンだ』って宣言してやろォかァ?」

「止めてくださいよ、恥ずかしい…」

 太閤秀吉はフイッと視線を逸らした。小石に躓く。

「っ!」

 太閤秀吉は紅丸からパッと手を離した。

「おっと」

 紅丸は太閤秀吉の肩をグイッと抱き寄せた。転びそうになった太閤秀吉を、紅丸が左腕1本で抱き止める。

 途端に周囲からキャアッと歓声が上がる。紅丸も太閤秀吉の耳許で小さく呟いた。

「変な気ィ起こすんじゃねェ」

「!」

 太閤秀吉は紅丸を見上げた。紅丸は静かに太閤秀吉を見つめた。

「どんなにモテ囃されようが、惚れてる女にモテなきゃ何の意味もねェだろォが」

 紅い眼がぼうっと光る。

「さっさと俺が好きだと言っちまいな」

 迫られて、太閤秀吉は固唾を飲んだ。紅色から眼が離せない。

「…無茶言わないでください」

 フイッと俯いた。己の顔が真っ赤なのが自分でもよく判った。

「フン」

 紅丸は太閤秀吉の肩を抱き寄せたまま通りを歩いた。太閤秀吉は、真っ直ぐに前を見据える紅丸を見上げた。

(この人は本当に…)

 背中に回された腕が、しっかりと己の肩を掴み寄せる手のひらが、とても力強くて温かい。紅丸の愛に理屈まで蕩かされそうだ。


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