浅草火消しの御前様(原案ver.)
□弐
27ページ/27ページ
駄菓子屋の老女が双子に近づく。
「2人とも良かったねえ。紅丸ちゃんのお嫁さん、元気になったんだって?」
「「!?」」
老女はニコニコしているのに、双子は蒼白した。
「ババアテメエ何で知ってやがる!」
「クソッ。せっかく姉御の情報を売りつけてやろうと思ったのに!」
双子は地団駄を踏んだ。老女は一瞬きょとんとしてから、ニイッと口角を上げて笑った。銀歯が光る。
「“何で”って…、ババアを舐めちゃいけないよ?」
「「くっ…」」
双子は怯んだ。しばし睨み合いが続く。
「はははっ。征司先生に訊いたんだよ!」
老女は大口を開けて笑った。種明かしをする。
「大人しそうで淑やかな娘だって言うじゃないか。奥の座を任せるにはちょっと頼りないかもだけど、紅丸ちゃんの気に入った娘だ、何とかするだろうよ」
老女は、今日はお祝いだからと双子に好きな駄菓子を1つずつ無料で渡した。
「ババア気前が良いな!」
「長生きするぜ!」
「そうかい。ありがとうよ」
双子は老女に手を振って駄菓子屋を後にした。老女も双子を見送る。
「…あんなに小さかった悪たれが、もうお嫁さんを迎えるとはねえ…」
懐かしそうに店内を見やる。寺子屋にはほとんど通わなかった天性の悪ガキは、棟梁の厳しい修行にもへこたれずに食らいつき、強大な炎を自在に操り纏を振るい、ついには若頭になった。
今では立派に浅草を背負って立っている。
「紅丸ちゃんが倅を連れて来るまで、私もお店続けないとねえ…!」
老女は目尻に溢れた嬉し涙をぬぐった。
精悍な伊達男に成長した紅丸の子だ、きっと浅草は次代も安泰だ。
○×○×○×○×○×
【完】