浅草火消しの御前様(原案ver.)

□壱
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「さっきも言いやしたが、ここは男所帯です。若ェ衆たちの寝所からは離れてるとはいえ、慣れない環境で1人というのも心細いでしょう」

「はぁ、まあ…」

 紺炉の口上に太閤秀吉は曖昧に頷いた。紺炉は提案する。

「チビたちと一緒の部屋にするのはどうですかィ?」

「…まァ、その方が良いだろォな」

 紅丸は首肯した。あの双子は若い衆たちはもちろん、他の男たちの虫除けにもなる。いくら頭では太閤秀吉が誰の女か解っていても、腐っても男と女、何か間違いが起きてからでは取り返しがつかない。

「あの。でしたら私がヒカゲちゃんとヒナタちゃんのお部屋に行きますよ?」

 新入りの私が2人に部屋を移動してもらうのは忍びないです、と太閤秀吉は遠慮した。

「太閤秀吉。お前ェ女だろ」

 紅丸は説き伏せる。

「女なら男と違って色々物入りだ。女3人、ちょうど良い広さじゃねェか」

「ですが…。広すぎませんか?」

 難色を示す太閤秀吉に紅丸はムッとした。眉間に皺を寄せる。

「今は広く感じるだろォがなァ、3人分の箪笥やら机やらの生活用品なんか置いたら、アッという間に手狭になンぞ」

「そ、そうなんですか…?」

 まだ理解していない太閤秀吉に紅丸は軽く舌打ちした。頭をガシガシと掻く。紺炉は微笑ましく2人を見つめた。

「特にお前ェは年頃だ。色々欲しいモンあンだろォが」

「…ま、まぁそれなりには…」

 太閤秀吉は鈍く首肯する。

「あの、箪笥とかはリサイクル品で充分です。すみませんが日用品などを揃えるのに少しお金を用立ててもらえませんか? お金は毎月少しずつ返済していきますので…。すみません、お願いします」

 紅丸に頭を下げる。

「あ〜クソッ! お前ェ全っ然分かってねェなあ!!」

 紅丸は頭を抱えた。

「???」

 太閤秀吉は首をかしげる。紅丸はガバリと顔を上げた。太閤秀吉の両肩をひっ掴む。

「いいか、ここじゃア助け合うのは当たり前なんだよ! いい加減覚えやがれ!!」

「す、すみません…?」

 太閤秀吉は引き気味に答えた。紺炉はプッと吹いた。

「今夜はお嬢の快気祝いと歓迎会を致しやしょう。若ェ衆らや町の連中らにもお披露目しねェといけやせんしねェ」

「えっ。何もそこまでオオゴトにしなくても…」

 太閤秀吉はオロオロする。紅丸は片手で無理矢理ミナモの顎を掴んでグイッと上向かせる。

「浅草の人間は義理人情に篤くお祭好きだ。覚えときな」

「は、ぃ…」

 太閤秀吉が観念したように頷いた。


○×○×○×○×○×


【完】
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