赤井家

□3:転校
4ページ/4ページ

 スーツ姿の白峰と私服の秀也は揃って校門を出た。

「皆への別れの挨拶、考えときなさいよ?」

「わかってるよ」

「あ。あと女関係もちゃんと清算しておくこと」

 白峰がピッと人差し指を立てる。秀也はげんなりした。

「女関係って…。オレ、誰ともそういう関係になってないよ」

「アンタモテるんだから、キッチリしとかないとねえ」

 白峰がニヤニヤする。秀也はすかさず反撃した。

「それなら父さんだってモテるでしょ?」

「秀一は私しか愛してないわよ」

 その自信はどこから来るのやら。どちらも一筋縄ではいかない性格の2人が結ばれているのだから、この世界は不思議だ。

 2人は無人の駐車場に向かった。1台だけ外車なのは、短時間でもやはり目立つ。

「それでも周りが放っとかないんじゃない?」

 父親にソックリな自分が断るのに苦労しているのだ。いくら眼つきが悪くとも、そのストイックな姿勢や滲み出る優しさなどは誰もが憧れ、惹かれるだろう。

 秀一は窓を開けて縁に腕をかけ、タバコを吸っていた。辺りに白煙が霧散する。帰って来た2人に気づき、タバコを消した。

「その時は私との仲を見せつけてやるわ」

「うわぁ、父さんも大変だね」

 嫉妬心を隠さない母親に、秀也は引いた。右側の窓をコンコンと叩く。

「お帰り」

「「ただいま」」

 白峰は助手席に、秀也は後部座席に乗り込んだ。秀也はシートベルトを締めてランドセルを膝の上で抱える。

 白峰も同じようにシートベルトを締めて鞄を膝の上に乗せた。秀一は白峰の後頭部に右手を入れて引き寄せる。

「んっ」

「!」

 息子の前で堂々とキスをする。

「ちょっと…。子供の前で何してんのよ」

 白峰が咎めるように秀一を睨む。ほおを染めているから大した威力はない。

 秀一はフッと笑った。白峰の左手を自身の右手と絡め、秀也を見やる。

「別に大変じゃないさ」

 秀一は白峰の薬指の――指輪の嵌められていない部分を唇で食む。

「いつも通りにしてればいいだけの事だ」

「! 話、聞いてたの…」

 秀也はたじろいだ。

「ちょっとした読唇術さ」

 秀一はウィンクする。その隣では白峰が、秀一の手に右手を重ねている。

「秀一、大好き」

「俺も好きだよ」

 秀一は蕩けた白峰と見つめ合った。彼女に手を離させて、よしよしと頭をなでる。

「続きは家だな」

「うん」

 秀一はエンジンをかけた。キスだけで周りを圧倒し最愛の妻を虜にする父親は、色んな意味で偉大だ。

(オレも大人になったら父さんみたいになるのかな…)

 秀也は運転する秀一を見つめた。


【完】
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ