赤井家
□3:転校
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スーツ姿の白峰と私服の秀也は揃って校門を出た。
「皆への別れの挨拶、考えときなさいよ?」
「わかってるよ」
「あ。あと女関係もちゃんと清算しておくこと」
白峰がピッと人差し指を立てる。秀也はげんなりした。
「女関係って…。オレ、誰ともそういう関係になってないよ」
「アンタモテるんだから、キッチリしとかないとねえ」
白峰がニヤニヤする。秀也はすかさず反撃した。
「それなら父さんだってモテるでしょ?」
「秀一は私しか愛してないわよ」
その自信はどこから来るのやら。どちらも一筋縄ではいかない性格の2人が結ばれているのだから、この世界は不思議だ。
2人は無人の駐車場に向かった。1台だけ外車なのは、短時間でもやはり目立つ。
「それでも周りが放っとかないんじゃない?」
父親にソックリな自分が断るのに苦労しているのだ。いくら眼つきが悪くとも、そのストイックな姿勢や滲み出る優しさなどは誰もが憧れ、惹かれるだろう。
秀一は窓を開けて縁に腕をかけ、タバコを吸っていた。辺りに白煙が霧散する。帰って来た2人に気づき、タバコを消した。
「その時は私との仲を見せつけてやるわ」
「うわぁ、父さんも大変だね」
嫉妬心を隠さない母親に、秀也は引いた。右側の窓をコンコンと叩く。
「お帰り」
「「ただいま」」
白峰は助手席に、秀也は後部座席に乗り込んだ。秀也はシートベルトを締めてランドセルを膝の上で抱える。
白峰も同じようにシートベルトを締めて鞄を膝の上に乗せた。秀一は白峰の後頭部に右手を入れて引き寄せる。
「んっ」
「!」
息子の前で堂々とキスをする。
「ちょっと…。子供の前で何してんのよ」
白峰が咎めるように秀一を睨む。ほおを染めているから大した威力はない。
秀一はフッと笑った。白峰の左手を自身の右手と絡め、秀也を見やる。
「別に大変じゃないさ」
秀一は白峰の薬指の――指輪の嵌められていない部分を唇で食む。
「いつも通りにしてればいいだけの事だ」
「! 話、聞いてたの…」
秀也はたじろいだ。
「ちょっとした読唇術さ」
秀一はウィンクする。その隣では白峰が、秀一の手に右手を重ねている。
「秀一、大好き」
「俺も好きだよ」
秀一は蕩けた白峰と見つめ合った。彼女に手を離させて、よしよしと頭をなでる。
「続きは家だな」
「うん」
秀一はエンジンをかけた。キスだけで周りを圧倒し最愛の妻を虜にする父親は、色んな意味で偉大だ。
(オレも大人になったら父さんみたいになるのかな…)
秀也は運転する秀一を見つめた。
【完】