二ノ章

□闇に閉ざされた後宮
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〜鄭善屋敷〜
「母上、何故このような事をなさったのですか!」

「故国を奪われたくはなかったから。燈の皇帝は、言葉や服装が同じというだけで統合など…。」

「母上は知らないのですか?元々燈と朗は、ある姉弟の末裔が建国したという事を…。この両国は、血で繋がった、他に類を見ない国なのです!」

「知っています、それくらい…。でも私には許せないのです!」

「母上、少しは冷静になって下さい!母上のこの軽はずみな言動が、恵妃様や賢妃様を窮地に立たせることになることを、もう少し考えるべきでした…!」

「でした…?」

「はぁ…言わないつもりでしたが…。」

「恵妃様に何かあったのか!?」

「今のところ、直接恵妃様に何かあった訳ではありませんが、我が君が母上が関与したことを詳しく調べ上げよと、関係部署に命を下されたのです。じきに、恵妃様達にも類が及ぶでしょう。例えどんなに我が君が、恵妃様を御寵愛なさっていたとしても、皇后や貴妃が黙っているはずがありません。必ず、少しの綻びも問題にして騒ぐでしょう。」

「ではどうすれば…!」

「密かに我が君にお会いして、許しを請うのです。今はまだ、大事にまで発展してはいません。」

「皇帝に、許しを請えというのか?」

「それ以外方法がございません!恵妃様を守るためなら、何でもしなくては…!」

「それだけは出来ない…絶対に。朗国の公主がそのようなこと…。」

「母上…!」

鄭善の説得も虚しく、綾篤公主の心を動かすことは出来なかった。その間にも、皇帝の命じた調査は着々と進められていった。皇后はその隙を見計らい、恵妃と賢妃を確実に追い落とす策を練っていた。
ある日の夜、恵妃の居所で賢妃と2人で談笑しているところに、珍しい客が訪れたのだった。

〜安寧宮(恵妃鄭氏の居所)〜
「恵妃様、外に皇后娘娘がお見えです。」

「お通ししろ。」

「はい。」

そこに現れたのは、不気味な笑みを浮かべた皇后だった。

「皇后娘娘、このような時にどうなさったのですか?」

「随分と落ち着いているな。そなたの母には、陛下を陥れようとしているという疑いが掛かっているというに。」

「それで皇后娘娘は、一体私に何を仰りにここまでお越しに?」

「そなたは必ずこの宮殿から出ていくことになる。」

「どの様な理由で?」

「さっき話した事でだ。」

「娘娘、恵妃に何故そのようなことを!?」

「そなたも例外ではないぞ。」

「え?」

「先に言っておくが、そなたたちは何をしようと、陛下を陥れようとした事実からは逃れられない。その事で宮殿を追放されても、誰も恨むでないぞ?そなた達自身でやったことなのだから。」

「娘娘…。」

「まあ、陛下に許しを請う真似くらいはしておくのだな。それと、後宮を仕切るのは女官達の長である皇后の役目なのは知っておろう。故に、例え陛下であっても、口出しなど出来ないというわけだ。だから、淡い望みなど捨てるのだな。」

そう言い残すと、大きく足音を立てて皇后は去っていった。

「恵妃。」

「大変な事になってしまいました。私のせいで賢妃様にまで類を及ぼしてしまうとは…。」

「そなたは悪くない!何も悪くない!そなたのせいでは無いのは、私がよく知っているし、陛下だって、恵妃のことを信じておられるはず。」

「賢妃様…!」

翌日、便殿では相変わらず綾篤公主のことを取り上げ、騒いでいた。

「我が君!綾篤公主は我が君に許しを請うこともせず、未だ我が君に対して反抗的な姿勢を崩しておりません!」

「我が君!今すぐ我が君を陥れようとした大逆罪で綾篤公主を即刻捉え、処刑するべきです!」

「そうです!それと我が君、御側室である恵妃様並びに賢妃様も、この事に関与した証拠が出てまいりました。お2人を尋問し、宮殿から追放すべきでございます!どうか御英断下さいませ、我が君!」

「どうか御英断下さいませ、我が君!」

「恵妃と賢妃の事を言うな!それ以上言えば、そなた達の首が飛ぶぞ!それに、綾篤公主を処刑しては、外交問題に発展する!何があっても極刑には処せぬ!」

「我が君!」

その後、皇帝は半ば強制的に、便殿を終わらせ、荒く息を吐きながら、聡英殿へと戻っていった。

「汪丞相、これで宜しいのですか?」

「皇后娘娘の仰せだ。間違っていない。」

〜聡英殿〜
「誰か居らぬか?」

「はい、陛下。」

「今日は、久しぶりに恵妃を昭華殿に呼ぶ。戌の刻に来るように。恵妃にそう伝えておけ、良いな?」

「はい、我が君。」

「もう下がるがよい。」

それからしばらく皇帝は、一人聡英殿に篭ったきり、申の刻まで出てくることはなかった。

〜安寧宮〜
「韋尚宮。陛下は今日、私を寝所にお呼びになった。」

「それは良いことではありませんか。なのに何故、そのように暗い顔をなさっているのですか?」

「陛下に合わせる顔がないのだ…。申し訳なくて、とても顔を合わせられそうにない…。」

「陛下は、決して恵妃様を疑ったり、恨んだりしておられませんよ。賢妃様も仰られていたようですね。そうです。例え皇后娘娘や貴妃様が怖くても、心の底では、誰も恵妃様を疑ってなどいません。これは本当です。どうして御自分のせいでないことで、御自分を責めるのですか?」

「韋尚宮…。本当か?それは、本当なのか?」

「本当です。私は、恵妃様が無実であることを知っています。誰よりも、潔白に生きて来られた方が、このような事をなさるはずかない。」

「有難いな…。そう言ってくれて、少しは心が軽くなった。」

「それは、ようございました。」

「さあ、そろそろ準備をしよう、陛下が仰った刻限に間に合わなくなる。」

「はい、恵妃様。」
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