二ノ章

□闇に閉ざされた後宮
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廃皇后馮氏が亡くなり、その時を待っていたかのように貴妃汪氏を頂点とする勢力が更に勢いを増して、“貴妃様を次の皇后に”と皇帝に毎日の様に上奏していた。それに対して皇帝は、何の反論も出来ないまま時は過ぎ、仕方なく、貴妃汪氏を第二皇后とする命を下した。

「いよいよ、私の世となる。夢にまで見た、この国の皇后の座。決して誰にも奪わせはしない!」

「流石、貴妃様ですね!」

「ふっ…。側室の座で終わる訳にはいかぬのだ。何としても綾清君を皇太子の座に据えねば。その為には、まずその母である私の座が高く、盤石なものでなくてはな!」

一ヶ月の準備期間を経て貴妃汪氏は、仁武帝の第二皇后としてその座に君臨した。そして、皇后汪氏に貢献したとして、徳妃高氏は側室の最高位である貴妃に昇格した。しかし皇后は、これから最も脅威となる恵妃鄭氏と賢妃薛氏だけは、位を上げることを許さなかったのだ。

〜清華宮(賢妃薛氏の居所)〜
「賢妃様。」

「恵妃、新たな皇后となった汪氏があなたを再び攻撃しないとは限らないわ。陛下の御子がいないとは言え、あなたは陛下の寵愛を一心に受けている。」

「確かに。その事で皇后から睨まれているのは分かっています。ですが、皇后だけではありませんよね?」

「それは…そうね。あの者か…。」

「そう、あの貴妃。善人と見せかけて、内面は悪人だった…。実際のところ、皇后よりも貴妃の方が頭がキレるし、状況をよく読み上手く立ち回る。でも、完全に仲が良いということも無さそう…。」

「それはどういうこと?」

「皇子です。」

「皇子…?あ…!そうか!」

「お気付きの通り、あの2人はそれぞれの立場で、自らの皇子を皇太子にするべく働きかけているようです。しかし、たとえ貴妃の子が第一皇子で嫡子だとしても、第二皇子は皇后の子。故に、第二皇子の綾清君が皇太子となる可能性が高い。」

「皇子の立太子問題はそう簡単に片付くものではない。まずは私達を追い落としてから、そう考えているかも…。」

「皇后と貴妃はそうしてくるでしょうね。我々の息の根を止めようとして、どんな手を使ってでも必ず襲いかかってくる。」

〜陽明殿〜
「我が君、以前から仰られていた朗国との統合についてでございますが、朗国が意見の食い違いにより、2つに分かれているようなのです。」

「何だと!?丞相、それは真か?」

「真にございます。ですが御安心を、我が君。それは特段気にすることでは無いと思われます。我々が気掛かりなのは、その反対派を率いている者の存在でございます。」

「それは一体、誰だ?」

「大変申し上げにくいことでございますが…。」

「早う申せ。」

「恵妃様の御母君であられる、朗国の公主・綾篤公主(劉夫人)でございます。」

「恵妃の母だと?」

「はい。」

「何故そのようなことを言う。」

「我々は、我が君のお力になろうと、少しでも我が君の両国統合を進めやすくするべく、その道を塞いでいるものを調べておりましたところ、綾篤公主の名が挙がったのでございます。何かの間違いだと思い、何度も調べ直しましたが、結果はどれも同じ人物を指しておりました…。」

「どうして…。」

「その上綾篤公主は、自らの兄で朗国の君主である今の皇帝に、我が君を討つよう嘆願書を送ったということも分かっております。しかし朗国の皇帝は、病を理由に、その願いを退けたようです。」

「それは事実で、嘘ではあるまいな?」

「我が君に嘘を申し上げてどうするのです!そのようなこと、一切しておりません!これが真実にございます!」

「関係部署に事の詳細を調べよと命じるのだ。もっと深く知りたい。」

「はい、我が君。仰せのままに。」

〜泰明殿〜
「恵妃はどうしている?」

「はい、娘娘。陽明殿では、両国統合に関して論じられ、その場で恵妃の母上の名が挙がったようです。我が君を陥れんとした容疑で…。その事を恵妃も聞いたのか、それ以降、居所から一歩も出てこないようなのです。」

「恵妃は知らなかったのか…?」

「そうではないでしょうか。」

「なるほど…ふふっ。こんなにも早く運が舞い降りてくるとは思わなかった!この機会は決して逃すわけにはいかぬ。ああそれと、今すぐ貴妃に、賢妃を追い出す為の口実を探せと伝えなさい。」

「はい!娘娘!」

〜華芳宮(貴妃高氏居所)〜
「貴妃様、皇后娘娘から伝言を承っております。」

「申せ。」

「皇后娘娘は貴妃様に、恵妃を追い出す口実は既にあるから、次はその後ろ盾となっている賢妃を追い出す証拠を見つけよ、とのことにございます。」

「承知致しましたと伝えよ。私も動く時が来たのだな。」
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