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□ラブストーリーは突然に/銀時
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ここは酒とエロを嗜むオヤジの聖地。
スナックお登勢。
なんだかいつもと違う賑やかさが、ここしばらく続いている。
常連だけでなく、ちらほら見知らぬ顔も見えて銀時は内心面白くない。
店が繁盛してることは喜ばしいことだが、その客達の目当てが気に入らない。

(こんなとこ連れて来るんじゃなかったな。)

賑やかさの中心にいる人物をチラッと横目で見て独りごちた。

「なんだい?
自分のもん取られたのが気に入らないって面だねぇ。」

そんな銀時の様子に気がついた店の主人お登勢が、カウンター越しに話しかけた。

「……。
最初っからアキは俺のもんじゃねぇよ。」

不貞腐れたように言って視線を流す銀時を見て、お登勢は愉快そうに煙草に火をつけた。

「アンタが最初ずぶ濡れのアキを連れてきた時は、次はなにしでかしたんだと驚いたがねぇ。
すっかり此処に溶け込んじまってるよ。」

そう言ってアキを見るお登勢の顔は穏やかで、まるで母親のようだ。
アキがお登勢の元にやってきたのは三ヶ月程前。
びしょ濡れの姿で銀時に連れられてやってきた。
お登勢は何があったかは聞かない。
人間生きてりゃ大なり小なり何かを抱えて生きてる……お登勢にはそれがよくわかった。

「とりあえず風呂でも入んな。
そんななりしてちゃ風邪引いちまうよ。」

そう言って招き入れて、以来そのままアキはお登勢の家に住んで店を手伝っている。

「で。
アンタら、どうなってんだい。」

お登勢にそう問われ銀時はアキを見たが、

「どうもねぇよ。」

そう言って、グラスに視線を移す。

「早いとこ捕まえちまわないと、あの通りだ。
いつ横から持ってかれちまうか。
おっと、余計なお世話だったかねぇ。」

と焚き付けられて、銀時はグラスの酒を呷ると席を立った。

「ごちそーさん。
寝るわ。」

お登勢の言葉には応えず、そのまま店を出た。

(んなこたぁ俺だってわかってんだよ……。)

そんなことを思いながら、アキを前にすると言葉が出ない。
何をどう、どこから伝えていいのかもわからない。
小さく溜め息を吐いて、階段を登りかけた時だった。

「銀さんっ。」

追い掛けてきたのか、アキに呼び止められる。

「アキか?どうしたよ?」

聞かずとも声でわかっている。
それでも聞いてしまうのは、わざわざ追い掛けてきた、それだけで嬉しく思う照れ隠しのようなものか。

「あのね、明日なんだけど……。
お登勢さんがお店休みにするって言ってて、良かったら少し出掛けない?
お礼もしたいし。」

そう言われて、先程までの店でのアキの姿やお登勢との会話なんかを思い出す。
胸が疼いて、息苦しい。

「せっかくの休みだ。
俺なんか誘ってないで、他に良い男でも誘えや。」

止めろと、頭では警告してるのに口だけが別の生き物のように動く。

「客の中に誰かいねぇのか。
誘ってみろって。」

暗闇の中、聞こえるのは銀時の声だけだ。
黙ったままのアキに、どんどん警告音が鳴り響く。

「誰もいなかったら、仕方ねぇから付き合ってや「いいよ。」」

銀時が言い終わるより先にアキが遮った。

「そんなに遠回しに断らなくていいよ。
嫌なら嫌だってハッキリ言ったらいいのに。」

ほらな、やっちまった。
そう思った時は遅かった。
どちらも口を開かず沈黙が続く。

そこに、

「アキちゃーん。
あれ?どこ行ったんだ?」

と客の声が聞こえる。
おさまってた疼きがぶり返す。

「行けよ。
呼んでるぜ。」

なるべく抑えて言ったつもりだ。
言って……この疼きは嫉妬なのだと気がついた。

「ほら、行けよ。」

行ってほしくなどない。
その証拠に、自分はこの場から動けない。

「よく、わかった。」

と小さくそう言って店へと戻るアキを見送って、

「なにやってんだ、俺ァ。」

呟いた銀時の声もまた小さなものだった。
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