遥か彼方のイーリアスを探して
□Act:8 地獄のような深淵で
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さて、どうしたものか。つゆりは今目の前に見える彼女―――聖女マルタのステータスを見て軽く溜息を吐いた。
案の定、自分が考えた状況がそのまま具現化された。アキレウスの宝具の一つ、『勇者の不凋花』。今回の戦闘ではほぼ意味をなさないと言っても過言ではないのだ。マルタのステータスに、こんなスキルがあった。―――『神性C』、アキレウスと同クラスの『神性』スキル。『勇者の凋花』は彼と同ランク以下―――つまりD、Eクラスの『神性』のダメージの削減を可能とする、という効果が無効となってしまうのだ。
「ふっ!」
マルタの戦い方はマリーと似た魔力の塊を放つものだった。だが、少しばかり勝手が違うらしく『爆発』をしているのだ。アレを見た立香が「あの魔力の弾を打つのってサーヴァントの間で流行ってるのかな?」、と呟いている姿を横目で見ながら「戦闘に集中しなさいよ」、と喝を入れた。
周囲にはジャンヌ・オルタがけしかけたであろうワイバーンの群れがいた。それを退けながらサーヴァント達は戦闘を行う。マスター二人に万が一のことが無いように、近くには防衛を得意とするマシュ、ジャンヌがいる為、大事に越したことは無い。支援はアマデウスとマリーが。これで万が一のことがあったとしてもいくらか対処できるはずだろう。この時のつゆりは慢心していたのだ。彼女―――聖女マルタを誤解していたのだから。
「あら、やるじゃない」
「―――でも」、マルタは不敵に笑ってみせた。得物であるはずの杖を霊体化させ、アキレウス目がけて飛び掛かる。拳を振るい上げ―――
「ハレルヤッ!!」
そのまま殴り掛かった。この瞬間つゆりの思考は一時停止した。聖女が、拳で、殴る。とても理解しがたい状況だ。威力も申し分ないと来た。いくら狂化されているとはいえ、アキレウスと体術で同等に戦えるのは想定外だ。
「‥‥‥アンタ、ソッチの方が慣れてんだろ」
「何のことか、分からないわねッ!」
アキレウスも薄々気づいていたらしく、彼女の変貌ぶりに些か引いている様子がうかがえる。目の前では英霊同士のリアルファイトが繰り広げられている状況につゆりは頭を悩ませる。このまま消耗戦に持ち込まれてしまえば自分の魔力がいつつ切るか分かったものではない。このまま宝具で一気に決着へ持っていこうか?だが、こちらが宝具を発動するとなれば彼女も宝具で迎え撃ってくることだろう。数々の思考がつゆりの中で渦巻く。
「‥‥‥殴り合ってないでさっさと終わらせるわよ、アキレウス」
「‥‥折角いい所だったんだがなぁ」
「ご生憎様ね。私、そう言う暑苦しいのは苦手だから」
「つれねぇマスターだな」、と愚痴を零されるも、今はそれどころではない。令呪を使って命令しない辺り、良心的だと思ってほしい所だ。自分で言うのもなんだか虚しい気もするが―――
「つゆり。お待ちになって」