遥か彼方のイーリアスを探して


□Act:3 空想の正義
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「全く、貴方は!何があったらどうするつもりだったの!?」
「だってアキレウスが」
「言い訳しないで」
「本当なんですけど」

 つゆりは何故こんな世の終わりのような場所で上司に怒られなければならないのだろう、と思いながらくどくどとねちっこいオルガマリーの説教を適当に聞き流していた。この女、オルガマリーはつゆりが想像していた以上に面倒な人間だった。几帳面な性格かと思いきや頑固な性格で、思わず頭を抱えたくなる。

「あ、ここで敵を見つけました。それで倒しておきました」
「敵!?どうして早く言わなかったのよ」
「だって所長が私の話を全然聞かないから」

 つゆりがそう言うとオルガマリーの怒りに満ちた表情は見る見るうちになんだか申し訳ない、とでも言いたげな表情へと変わっていた。『‥‥‥悪かったわ』と謝罪をするあたり、罪悪感は感じているのだろう。つゆりは『別にいいですけど』と未練たらしくそう返してやった。本当ならばもっと煽ってやりたいところだったが、この状況下ではそうもいくまい。

 立香達がいた大橋にはあの後、二騎の黒い靄を纏ったサーヴァント‥‥‥ランサーとアサシンがそこにはいたようだ。マシュはデミ・サーヴァントである上に自らの宝具をまだうまく扱えないようで苦戦を強いられていたのではないか、とつゆりはふと思ったが、見たことのない男を視界にとらえたことでその先の展開が手に取るように分かった。
 ローブを被った男のサーヴァント、キャスターの乱入によって戦況は大きく優勢へと傾いたらしく、辛勝ではあったものの勝利をつかみ取ることが出来た様子だった。

 だがしかし。それにも拘らず、マシュの顔は見るからに不安げな、落ち込んでいるような表情であり、つゆりは不思議そうに彼女を見る。

「ねぇ、あの子どうしたの」
「‥さっきの戦闘のことなんだけど。マシュ、宝具が使えないことを悩んでいるみたいで」
「デミ・サーヴァントっていう奴なんだっけ」

 つゆりが立香にそう聞くと、立香は少しだけ首を縦に動かした。大橋付近やカルデアで見せたあの能天気、というか無邪気な表情はどこかへ行ってしまったらしく、立香も立香で軽いショックを受けている様子だった。

「別に、それでもいいんじゃないの」
「え」

 立香には、つゆりが何を言っているのかさっぱり理解できなかった。つゆりはそんな彼女をよそ目に、淡々と話を続ける。

「花はさ、早咲きだとか、遅咲きだとかあるじゃない」
「あぁ、うん。そう、だね?」
「あの子の場合、遅咲きなんでしょ。どんな花だって、いつかは蕾をつけて、花が咲く。枯れない限り、諦めない限り、大丈夫なんじゃないの」

 例え話をした。柄にもない、花の話をした。

「‥‥‥要するに。その、えっと‥‥」
「つゆりちゃん?」
「マスターであるアンタが支えてあげればいいんじゃないの。あの子が立派なサーヴァントになれるように」

 なんだか自分に照れ臭くなってしまったつゆりは若干早口になってしまったが、伝えたいことを立香に伝えた。つゆりの話を聞いていた彼女はと言うと、つゆりの顔をじっと見つめる。追い打ちをかけられている気分になってきたつゆりは『な、何』とぶっきらぼうな声を出した。

「ありがとう、なんか吹っ切れたよ!」

 さながらひまわりのような笑顔を浮かべた立香は、いつもの様子を見せていた。すると、彼女はその笑顔をつゆりに向けてこう言った。

「つゆりちゃんって、花が好きなんだね!」
「はぁ?」

 思わず、呆れたような顔を浮かべてしまった。

 どうしてそうなった、と立香に質問をしたかったが、彼女はつゆりの元から今度はマシュの方へと走っていった。途中、躓きかけるのを見ながらつゆりは複雑な表情をただただ浮かべていた。

「‥‥変な奴」

 立香を、一言で表すなら、それで十分だった。

「そう言うアンタは素直じゃねぇな」
「うるさい‥‥‥というか。いつから聞いてた訳」
「アンタがあの嬢ちゃんの子と聞いた辺りから」
「ふーん‥‥‥」

 腹が立った為、いつも通りの興味無さげな返事を返してやった。
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