幼き花の誉れ 誉れの花の章


□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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「ほら、ほらほらほらぁ!もっと、もっと私を愉しませてよ!!」


 普段の大人しそうなリクスの面影はなく、それどころか強敵との戦闘に一種の愉しみを感じている。その証拠に彼女の瞳には狂気が滲み出ていた。
出鱈目に、だがしかし確実に。彼女の二つの得物はランサーの命を抉り取らんとしている。金属独特の音と共に火花が弾けては、消え。また弾けては消えるという一連の場面を繰り返す。それは、時間が経てば経つほどに激しさを増すばかりだ。

 ランサーは唯、冷静に。怪物とは思えない程に、静かに来たるべき時を待ちわびていた。彼女が連撃を繰り出すのを眺めては受け流す。
 獣か何かのように、リクスがランサー目がけて得物を振りかざしたその瞬間だった。宝具を発動させんとしたのは。

 普段の冷静さを一瞬だけ取り戻したリクスは舌打ちを漏らした。ここまで来てしまえば回避行動は行えない。だが、それが何だというのだ。大丈夫、そう、大丈夫。

 ―――私には、まだこれがある。


「来いっ!!!」


 彼女を呼ぶことなど、その一言だけで十分だった。


 ―――鮮やかなり、天元の花。その剣、無空の高みに届く。


 「彼女」に敗れたものは、そう口にした。

 一瞬にして、それは舞い降りた。

 高嶺に咲いた一輪の花のように、果てしない大空を飛ぶ鳥のように。


「―――待ってましたっ!」


 そこには、先程まで対峙していた女とは違う、一人の女剣士がそこにはいた。「もう!ずっと読んでくれないから退屈してたんだからね?」、とリクスにそう言った。「帰ったらうどん食べさせてあげるね」、と彼女が言うと、女剣士は瞬く間に晴れやかな笑顔を見せ、「約束!約束だからね」と言い、自らの得物を構える。
 得物は、リクスとそっくりそのまま、同じものであった。

 ランサーにとってそれはどうでもいいことであり、矛先を変えて女剣士に宝具を放つ。

 自らの体内で杭を生成し、それを宝具として扱う。何に使うのか?もちろん、彼のクラス、ランサーの名に恥じない理由だ。「刺す為」、「串刺しにする為」。


 ―――その宝具の名を、血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)


 一斉に杭が女剣士目がけて放たれる。あのままではここら一帯が血の海と化す。その瞬間だ。女剣士は自らの愛刀を振るった。
 先程までの雰囲気は一変。ピリッとした戦場独特の物へと変わる。
女の目は、「目の前のもの」ではなく、「先の未来」を見つめる一種の魔眼だった。

「折角「マスター」が呼んでくれたんだもの、期待には全力で応えなくちゃね!」

 赤い着物がやけに映えた。「あぁ、そうだ。名乗るのを忘れてた」、女剣士はそう言った。そして愛刀を構え、こう口にする。

「―――新免武蔵。ここに推参、ってね!」

 それは、彼女を何度も救ってきた大切な仲間。心が折れそうだった自分を支えてくれた、自分と共にあの修羅の、茨の道を歩んでくれた、―――そう。言葉では言い表せないような。

「マスター、大丈夫?」

 リクスの瞳には、唯。花が、一輪咲いていた。

 ―――女の真名は、宮本 武蔵。天元の花と呼ばれた、剣豪の名である。
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