幼き花の誉れ 誉れの花の章
□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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「不可能ではないのでしょうか。聖杯なんて―――」
「いいからいいから!ささっ。早く詠唱したまえ!」
半ばダヴィンチに強制される、と言う形で召喚の儀を始める。ミシェはなんだか腑に落ちないような様子だったが、「分かりました」、と言った瞬間に詠唱に取り掛かる。
一方その頃。竜の魔女率いる陣営。
「‥‥あら。苦し紛れに召喚でもするつもりでしょうか」
早速ミシェがサーヴァントを召喚しようとしている気配を感じ取ったようだ。だがしかし。この時彼女達は慢心していたのだ。
自分達が何とも思ってすらいなかった障害である“少女”が飛んだキーパーソンになるとは思いもしなかった。
「あの女と出会ったら、どうしましょうか。出会い頭に火あぶりにでもしてあげましょうか」
彼女のことを口にしながら、意地の悪い笑みを浮かべたジャンヌ。それは聖女とは程遠い、魔女のものだった。
高らかな笑いを草原に響かせながら、一行はラ・シャリテへと進んでいく。
―――この数刻後、少女が起こす奇跡に驚かされるとも知らずに。
再び、舞台はラ・シャリテへ。
サーヴァント召喚の儀が終わったミシェはとてつもない脱力感に襲われた。それも仕方ない。この少女はなんと、2騎のサーヴァントの召喚に成功してしまったのだ。こんな幼い子供の体躯に、どれだけの魔力が込められているのだろうか。
まるで、体の中に無限に湧き出るような泉があるようだ。立香はただただ、ミシェの魔術才能に息を呑むばかりだった。そして、目の前に現れた2騎のサーヴァントを見やる。
リクスと同年代の少女が2人。片方の少女は凛々しさの中にどこか少しだけ幼さが残っている。もう片方はそんな少女とは正反対に、明朗活発と言う言葉がしっくりくる少女だった。
「‥‥‥問おう。貴方が―――」
「やっほー!僕の名前はアストルフォ!」
「‥‥私のセリフとかぶせないでいただけますか。ライダー」
「えぇーっ。いいじゃん、それ位!別に減る物じゃないんだしさっ」
まるで敵が襲ってくる数分前とは思えない光景だ。立香は思わず、小さく溜息を吐くばかりだ。
マシュが声を遮られた方のサーヴァントをずっと見つめている。「どうしたの?」と聞けば、返って来たのは「あのお方、どこかでお会いしたような」という何ともまあ曖昧なものであった。マシュが必死に見つめるものだから、立香も思わず彼女を見つめる。彼女に似た誰かを、どこかで見た記憶がある。
「あっ。冬木の―――!」
「まさか‥‥変異していないアーサー王なのでしょうか?」
「えぇ。私とは違う個体ですが、あれも私ですよ」
アーサー王本人からその言葉が出た瞬間、立香は勢いよくミシェの手を握りしめた。自分が召喚したわけでもないのに、まるで自分の事のように喜んでしまった。
「やったよミシェちゃん!これなら―――!」
「いや待て、大将、アンタ動けるか」
「‥‥‥どうでしょう。思ったより、きついですね。いざとなったら私を捨てて‥‥」
「馬鹿。アンタが死んだら俺らも消滅するんだけど」
「あぁ。そう、でしたね。すいません、なんだか‥頭が、回らなくて」
「あー‥いい。もうアンタ喋んな」
そう言うや否やアサシンは小さな体躯を持ち上げた。俵のように持ち上げたのだ。立香は思わず口からこう出た。
「いやいやいや。もっと大切に扱えよ」