幼き花の誉れ 誉れの花の章


□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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 今現在の目的。それは情報収集だった。今この特異点に訪れたばかりのミシェ達には余りにも情報が少なすぎる。という訳でラ・シャリテへとやって来た一行だった。ラ・シャリテもジャンヌと出会った砦よりも酷い有り様で、人ひとりいない寂れた様子だった。
運よく竜の魔女―――もう一人の“ジャンヌ”率いる陣営はすでに去った後であり、不幸中の幸いだと言えるものだった。


「‥‥酷い有り様ですね。これも‥‥“私”がやったものなのでしょう」

「‥ジャンヌさん」


 ミシェはジャンヌを見つめていた。この大惨事を引き起こしたのは、目の前にいる“ジャンヌ”ではないのに、どうして。善悪がまだはっきりと分からない子どもである彼女だからこそ、言えることだった。


「‥‥私には、まだしっかりと“何がよくて、何が悪いのか”は分かりません。でも。これだけは言えます。ジャンヌさんは、一人じゃありません。私もいます、アサシンだって、リクスさんも、お兄さんも、マシュさんも。皆貴方を裏切ったりはしません」


 翡翠の瞳は、しっかりとジャンヌを捉えていた。

 目の前にいる自分が。聖女としてのジャンヌ・ダルクではなく、竜の魔女であるジャンヌ・ダルクならば。彼女はどう反応したことだろう。


「ミシェル。貴方は優しいのですね」

「そんなこと。そんなこと、ありません。私は―――」


 ジャンヌにそっと頭を撫でられた感覚が、なんだかアサシンのそれとはどこか違った。温かい、太陽のような、ミシェの言葉では言い表せないようなモノであった。だがしかし。きっと。


 ―――自分に母がいたのであれば。こんな気持ちだったのだろうか。


 キュッと少しだけ苦しくなる胸を押さえていたミシェであったが、その瞬間に今までにない気配を感じた。禍々しい魔力を感じた。それが徐々に“意志でもあるかのように”こちらに向かっていくのを感じられた。


「‥‥‥!」


 まずい。彼女達が―――“ジャンヌ”達が自分達の存在に気付いてしまった!!


「数は‥‥5。どうするんだい大将(マスター)?片っ端から蹴散らすか」

「それでもいいんじゃない?いざとなればマシュの宝具でカバーもできるし」

「駄目です」


 アサシンやリクスは彼女達と真っ向から戦うつもりでいるようだ。だが、それでは勝ち目がない。ミシェはそんな気がしていたのだ。


もしも。大量のワイバーンを呼ばれてしまえば?

ワイバーンよりも強いものを呼ばれてしまえば?

こちら側よりも強力な宝具を使われてしまえば?


 いくら何でもリクスがいるとはいえ、正面からの戦いはいくら何でも危険だ。敵の力は未知数。こちらには地の利も戦力も全くもって足りない。無謀すぎる。
 ミシェはホログラム越しのロマニに作戦を提案した。


「ドクター、ここは撤退を―――」

「いいや、もう無理だ‥‥!この中にライダーでもいれば宝具を使ってそれも考えられたけど彼らもそうやすやすは逃がしてはくれない」

「ですが―――!」


 絶望的な状況下。徐々に5騎のサーヴァント達の距離は縮んでいくばかりだ。


「ミシェちゃん。賭けに出ようか」


 ロマニの隣に、ダヴィンチの姿があった。その言葉を聞いたミシェは小さい声で「まさか」と呟いた。この状況下、ダヴィンチはミシェに可能性を見出したというのだろうか。


「“私の予測”が確かなら。君ならここでも召喚が出来るはずさ、何?もしも失敗したら、だって?そんなことはあり得ないよ。何故なら私は―――」


 「「万能の天才」だからね、君たちのサポートなんて朝飯前さ」。
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