幼き花の誉れ 誉れの花の章
□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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ジャンヌに誘われたミシェ達。特に断る理由もないので、彼女と共にこの特異点を進んでいくことにしたのであった。
多少敵性エネミー達の襲撃はあったものの、特に苦労することもなく討伐に成功した‥‥‥まあ、あのメンツならば特に心配する必要などないのだが、と言うツッコミはもはや立香にとっての恒例行事と化していた。
日は暮れ、辺りは静かになった。ジャンヌは辺りを見渡し、「ここなら大丈夫そうですね」と一言そう言った。
「それならば、今日はここで野宿でしょうか?」
「そうですね。貴方達は問題ありませんか?」
数時間行動を共にしていたが、やはりジャンヌ・ダルクと言う女は魔女と言う言葉には縁のないような、そんな穏やかで慈愛に満ちているかのような女性だった。現に、今も自分達に心配をしてくれている。
「‥‥まず、貴方達の名前をお聞きしたいのですが」
ジャンヌに促されるように、各々は自己紹介を始める。すると、彼女はある言葉を聞くとピタリ、と動きを止めた。
「‥‥ミシェ、リツカと言いましたか。“この聖杯戦争”にもマスターはいるのですね」
この聖杯戦争、と言ったか。だがしかし、ミシェ 達にとってこの聖杯戦争とは全くの無関係だった。
「何と言えばいいのでしょうか‥私達はこの聖杯戦争には参加していません」
「‥では、関係ない、と?」
ミシェは肯定、の意味を現す為に静かに首を縦に動かした。
その後、ジャンヌから様々な事情を聴いた。
まずはジャンヌ自身に関する事。
自分がサーヴァントでクラスがルーラーだということは理解しているのだが、本来聖杯戦争に参加するサーヴァントに与えられるべき聖杯戦争に関する知識の大半が存在していない、というのだ。
それに加えて、ジャンヌ自身のステータスもランクダウンしているらしく、ルーラーの固有スキルである真名看破、対サーヴァント用の令呪も意味をなさない物と化しているようだ。
次はこの特異点に関する事。
ジャンヌも数時間前に現界したばかりであり、状況を完全に理解しているとは言い切れないが、「この特異点」もとい「オルレアン」には“もう一人”、ジャンヌ・ダルクと言う人物が存在するようだ。
だがしかし、矛盾が発生する。
もう既に、この時代ではジャンヌ・ダルクと言うかの聖女―――もとい魔女は処刑されたのだ。つまりはサーヴァントでもない限り存在は不可能なのだ。
このことに関してはミシェも首を傾げる。自分は聖杯戦争に参加したことはないが、今まで義理の両親達に隠れて読んで来た聖杯戦争やサーヴァントに関する資料の内容を思い出す限りでは「召喚に成功した」と言うのはあるようだが、詳しいことはさっぱり分からない。
ミシェは思考を膨らませた。そのおかげで周囲の声はさっぱり聞こえないが、問題ない。
―――別の適正クラスでの召喚という可能性。
―――いる筈のない人物・幻想種ワイバーン。
―――二人のジャンヌ・ダルク。
―――“竜の魔女”。
―――手がかりのない聖杯。
一つ一つのキーワードを、丁寧に紐解いていく。そして、決め手は聖杯戦争。
「‥‥もしも」
「おっと、何か分かったかい?」
「もしも、の仮定ですが。聖杯が私達にとって敵側―――仮に「“竜の魔女”の陣営」とでも言いましょうか。そちら側の手に聖杯があると考えましょう。そうでもしなければサーヴァントの召喚は成立しない、至って初歩的な事です」
かの有名な名探偵の言葉を真似ながら、少しだけ得意げな表情を浮かべた。