幼き花の誉れ 誉れの花の章
□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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「あらよっと!」
―――おかしい。
目の前でワイバーン達に拳を振るうアサシンをよそ目にミシェは一人、確信に至ろうとしていた。
何故、幻想種の一種である彼らがこんな場所にいるのだろう。レイシフト先が神話の逸話―――と言うのなら、多少納得はできる。だがしかし、こんな所に彼らがいる筈がない。ここは史実上のフランス、オルレアンだ。当然ながら史実にドラゴンが存在した、と言うのは記憶にない。
仮に、あの白の御旗の女のサーヴァントの真名が―――
再びワイバーンがミシェをその鋭き爪で切り裂かんとするべく襲い掛からんとしていた。身長差があまりにもアンバランスでただでさえ人間よりも大きなワイバーンがより一層大きく見えてしまう。
―――今度は、同じミスなどしない。
ミシェは手で銃の形を作る。もちろん銃口に当たる人差し指の部分は、ワイバーンに向けて。
「―――ガンドッ!!」
黒い魔力の塊は銃弾の如く、見事ワイバーンを貫いた。「ごめんなさい」と謝罪を述べながら、あと数秒程度でこと切れてしまうであろうワイバーンをただただ見つめていた。
あと数秒、反応が遅れてしまったらどうなることだっただろうか。こと切れるのはあのワイバーンではなく、自分だったのだろうか。そんなことを考えながら辺りを見渡す。アサシンとリクスがあまりにも強いからか、それとも元々個体が少なかったからなのか。ワイバーンの群れはあっという間に動かぬ屍と化していた。
「‥‥ごめんなさい。でも、これも仕方のないことだから」
ワイバーンの屍の山をミシェは少しだけ、呆然とした表情で見つめていた。それはいつの間にか隣にいた女のサーヴァントにも言えることで、悲痛な表情を浮かべていた。
‥‥‥何故、あんなにも他人を思えるのだろう。
ふと、そう思えてしまった。
今の自分には彼女のことは到底理解しがたい、気がする。
自分はあの時、あの子ども達のことについて謝罪の念はある。だがしかし、どうしても同情はしなかった。否、この場合は“できなかった”と言う方が正しいのだろう。何故かは知らないが、同情、と言うよりは「ああはなりたくない」という一種の恐怖の念を抱いていた。
「‥‥あの」
女が、ミシェの前に目線を合わせるようにかがんだ。その瞳は、まるで悲しみの色が浮かび上がっているようだ。
「貴方は、怖くないのですか?」
少しだけ躊躇いながら、女はそう言った。確かに、彼女の言う通りだ。自分で言うのもなんだが、自分はまだ年端もいかないような子どもだ。きっとそんな幼い少女が戦場にいることに違和感を抱いていたのだろう。
少しだけ考える素振りをしたミシェは少しだけ朗らかな笑顔を浮かべて、こういってみせた。
「怖くはない、です。友達がいるから。それに、自慢ではないですけど私達には休む暇なんてないですから」
女はミシェの姿に、かつての自分と重ねていた。
―――戦場に立っていた、あの頃の自分にどこか似ている。
同胞がいるから、あのお方の声が聞こえるから、怖くなかった。
民を、国を救う為に、休む間など自分にはなかった。
「貴方は、強いのですね」
できることなら、この少女に傷ついてほしくない。その小さな手を赤く染めて欲しくない。自分の二の舞になどなってほしくない。
だが、だが。
自分の言葉を聞いたところで、この少女は立ち止まることも、諦めることはしないのだろう。女は何故か、そんな気がしていた。
「ねぇ、ミシェルちゃん。聞いてよ」
少しだけ、いや、それ以上に不機嫌な顔を浮かべたリクスがこちらへ駆けつけたと思いきやミシェの手を握った。
「ドクターったらレイシフトが終わったら食べようと思ったゴマ饅頭食べちゃったんだよ‥‥許せないでしょ?」
明らかに17歳の少女が浮かべるような表情じゃない。アレは明らかに敵に向けるような表情だ。それに加えて後半の声はかなりの怒気を含んだような、聞いているだけでゾッとするようなものだ。
「え、あのっ、そのっ‥‥」
いきなりのことでどうすればいいのか分からないミシェを、女は少しだけ微笑ましい表情を覗かせながら見ていた。