幼き花の誉れ 誉れの花の章


□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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 金色の髪に、少々紫がかった青の瞳。そして何より目が付いたのは身の丈以上はあるであろう白の御旗。あの凛とした声が彼女から発せられたものであることは明白だった。


「‥あー‥‥」


 リクスは何とも言えないような、だがどこか納得したような声を出していた。どうしてそんな声を出したのかは、彼女のみぞ知ることだが。


 白の御旗を持った女は、周囲のことはお構いなしに立香の方へと歩み寄った。立香は思わず上ずった声を上げる‥‥どういった意味合いかは、あえて言わないことにしておこうか。


「どうなさったのですか?」

「‥あ、い、いや―――」


 立香が必死に次の言葉を探そうと必死に脳内に散らばったワードを組み立てていこうとしていた時だ。


「‥‥あの。一つ、よろしいでしょうか。白き御旗のお方」


 幼い声が、女を呼び止めた。その声の主は言わずもがな、ミシェだ。女は嫌な顔一つせずに、ミシェの翡翠の瞳を見つめる。


「‥何でしょう」


 ミシェは、女の放つある一種の気配にデジャヴを感じていた。ソレの正体は、自分にはとても心当たりがある。

 ―――ヒントは、隣にいる友人とでも言えばいいだろうか。いいや、これじゃあヒントではなくアンサーになってしまうだろう。


「貴方は、何のクラスですか」


 あえて、サーヴァントかとは聞かなかった。彼女がサーヴァントだということにはもう既に確信があったからだ。だがしかし、おかしいのだ。サーヴァントの放つ魔力反応なのは分かり切っているのだが、アサシンが放つソレとはまた違く、しかも微弱なものだ。


「―――鋭いのですね、名も知らぬ少女よ」


 女のサーヴァントは、ふわりと笑みをこぼした。まるで花が咲くかのような、綻んだ笑顔だ。ミシェは、嫌な気分にはならなかった。


 白の御旗が、彼女の得物なのだろう。だがしかし、サーヴァントに旗を扱うクラス、など存在しない。槍を扱うクラス、ランサーであれば多少の納得がいくが、違う。彼女の放つ魔力は、何と言えばいいだろうか―――清らかなのだ。穢れを知らないような、そんな―――

 ミシェは、幼い体躯でありながら子どもとは思えない思考を巡らせていた。


彼女のクラスが割れれば、きっと真名も――――

 その時である。その幼い体躯に衝撃が走らんとしていた‥‥襲撃だ。しかも、生身の人間でもなければ、朽ちた屍でもない。
翼のある、爬虫類。一部の伝承では幻想種でもある―――ファンタジーでは毎度おなじみの、“奴”だ。


「ド、ドラゴンとか聞いてないんですけど―――!?」


「あー、やっぱりか。やっぱり来ちゃうよなぁ」


 約一名だけ、妙に納得したかのような声を上げている。声の主は、言わなくともわかるだろう。


「‥ドラゴン、いえ。この場合は飛竜―――ワイバーンでしょうか」


 この期に及んでも全く動揺しないミシェにはもはや呆れてしまう。


―――さて、アイツの友人としてやることはやっとかねぇとなぁ?


アサシンは何も言わずにほんの軽くミシェの頭を叩いてやった。それでやっと我に返ったのか、ミシェは少しだけハッとしたような表情を覗かせた。


「なーに呑気に言ってんだぁ? 大将(マスター)

「いえ‥‥アサシン。頼みがあります」


 そう来ると思った。アサシンは彼女の意図を読み取ったのかすぐさま飛竜たちの群れに飛び込んでいった。


「―――一匹残さず、倒してください!」


「いいよぉ!!」


 狂気じみた笑みを浮かべながら、舞うように戦うその姿は思わず見とれてしまう。だがしかし、その中でもある人物は彼に見とれてはいなかった。


「‥‥なんて事でしょう」


 白き御旗の女は、酷く胸を痛めていた。
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