幼き花の誉れ 誉れの花の章


□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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 大空には本来ないはずのものがあった。ソレはまるで光の輪か何かのように空に架かっていた。ロマニの話によれば、アレは何らかの魔術式なのではないかという結論に至った。


「―――霊脈、ですか」


 あの魔術式のような現象はカルデア側が調査してくれる、と言うことで話は着いた。それでミシェ達は召喚サークルを作成すべく、龍脈を探すことも目的の一つになった。


 特異点―――周囲の探索は勿論、この時代における人間との接触、召喚サークルの設置。やることは山積みであったものの、一つ一つ片付けていくしか道はなかったのであった。


「あ、早速話を聞いてもらえそうな人を発見。どうする、話す?」


 リクスがいち早く人間の存在に気付いた。
 身なりを見るところ、フランスの兵士か何かだろう。話を聞いてもらえそうには聞いてもらえそうだが―――


「あっ、あのすいませ‥‥」


「待ってください、お兄さん。相手は見たところフランス人のお方、日本で言う郷に入っては郷に従えという奴です。ここはフランス語で対処しましょう」


 立香はフランス兵に声を掛けようとするものの、ミシェがそれを制する。そうだ、カルデアの職員は日本語でも十分にコミュニケーションが取れた。だがしかし、此処は1400年代のフランス、日本の文化などある筈もなかった。

 ミシェとマシュがフランス兵に声を掛けたその瞬間である。フランス兵の男は何やら酷く怯えた様子を見せたものの、それは一瞬だった。声を張り上げ、同胞に危機が迫ったことを伝えている―――まずい、と思った時には後の祭りという奴であった。


「囲まれましたね、アサシン。出番ですよ」


 ミシェはもうここまで来たならば戦闘を回避するのは難しいだろうと判断したらしく、彼の名を呼んだ。その声から数秒も経たずに黄金の粒子が舞ったかと思いきや、赤い花が映える男が現れた。

 立香達にとってはもはや日常茶飯事と化した英霊だが、今自分達を取り囲んでいる彼らはどうだろうか。未知、と言うよりも恐怖である。


「ヒッ‥‥この子ども、“魔女”か!!捕らえろ!!」


 魔女。それは当時のフランスやヨーロッパ近辺において一種の侮辱、というよりも罪、という概念に近い物であった。魔女裁判、魔女狩りとでも言えば分かりやすいだろうか。


 そんな言葉を、従者の顔を持つ彼がやすやすと聞き逃す筈などなかった。


「―――あ”?」


 怒気が含まれたような声が聞こえた。その声を聞いた主の少女は止めようと振り返ったがもう遅かった。今の彼はあの、悪寒を感じるような表情をしていたから。
艶やかな黒い髪がふわりと揺れたと思いきや、彼の姿はすでにミシェの隣にはなかった。勢いよく、主を冒涜した兵士に殴りかかった。
これには主のミシェも思わず開いた口が塞がらなかった。白い陶器の肌によく映える薄桃色の薄い唇がぽっかりと開いてしまっている。


「‥‥マ、マシュ‥‥頑張ろうか」

「‥分かりました、マシュ・キリエライト、行きます!!」

「て、手加減はしてあげてね!情報も聞きたいし」


 立香はこの状況の中、脳がついて行けず思わず固まってしまった‥‥が何とか脳を回転させ、己の後輩に呼び掛けた。

 できることならば戦闘は避けたかった様子を見せた立香だったがもうここまで来てしまったのならば引き下がれない、それにミシェの誤解(あながち間違っていないのだが)を解かなければいけない。そうなれば死なない程度に戦わなければ、マシュには少し無茶をさせてしまったかもしれない、心の中で謝罪の念を述べながら立夏は前を向いた。否、“向くはずだった”。


「―――リクスさん、リクスさん!!」


 どこかで聞いたことのない声が聞こえた。だが、その人物はあの少女の名を紡いでいるようで、気になってしまった立香は前ではなく、後ろを振り向いてしまった。


 ―――そこには、衝撃の光景が繰り広げられていた。


「‥‥‥うるさいな、アメジスト」

「皆さん戦っていますよ。ここは私達も武装して戦うべきです、ほら!」

「嫌だよ、17歳が人前で魔法少女になるのって結構年齢的にしんどいんだよ?そう言うのはもっと年下の子にやるべきだよ、ミシェルちゃんとか」


 リクスと、青紫色の可愛らしい杖―――所謂、魔法少女が持っているであろう例のアイテム、マジカルステッキだ。ありえないかもしれないが、ソレは意思を持っているかのように飛び回り、あろうことか柄の部分が蛇のようにうねっているのだ。


 ―――いやいやいや!落ち着け、落ち着け藤丸 立香!!今のは幻、そう、幻だ!!


 衝撃的展開に目をつぶってしまった。そして数十秒経った頃に、恐る恐る目を開くと、先程と同じ光景が広がっていた。


「‥‥あの、どうか?」


 マジカルステッキがこちらを振り向いた。そしてあろうことか立香に向けて人語を話しているのだ。


「うわあああああああああああ!!!杖が、杖が喋った、うわあああああああああ!!!」


 この出来事はついこの間まで男子高校生だった藤丸立香がここ最近で衝撃的な出来事TOP3においてぶっちぎりの1位となった―――
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