幼き花の誉れ 誉れの花の章


□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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 そんなところに、立香の後輩にあたるマシュがやって来た。


 「先輩、そんなところで何をしているんですか?」と言いながら食堂に足を踏み入れたマシュ。彼女は訳あって盾使いのサーヴァント・シールダーのデミサーヴァントとして立香と共にこの前の特異点攻略において最前線で活躍した。そして、あの破壊工作から無事に生還したカルデアの構成員のうちの一人である。


「あっ、い、いや!な、何でもないよ!!」


 ―――この際はっきり言ってしまおう。今の立香の行動はあからさまに不自然な行動でしかない、挙動不審そのものである。


「‥見なかったことにしますね、先輩」


 マシュは少し申し訳なさそうにしつつ、静かに立香から視線を外した。一時は安堵するものの、なんだか腑に落ちないのは気のせいだろう。きっと気のせいだ。必死になりながら自分に言い聞かせる立香とは裏腹に、ミシェはとても嬉しそうな表情を覗かせていた。


 ―――へぇ。マスター(アンタ)、そんな顔もできんのか。


 少女を、若草色の瞳が見つめていた。


 ミシェは10歳という幼さが残る年齢ではあるものの、彼女はそれを全く感じさせない。それどころか余りにも大人びているのだ、彼女と契約して数日が経ったが鉄仮面とまではいかないが、人形のようなあの顔が年頃の少女のそれに変わるのは、数えられる程度だった。


「あ、マシュだ。やっほー」


 ミシェと会話を続けていたリクスはすぐさまマシュに気づき、彼女に対して手を振ったが、当の本人は不思議そうな表情を見せていた。


「‥?私、リクスさんに名乗りましたか?」


「ん?別に。可愛い子の話はすぐ耳に入るからね、もちろんミシェル ちゃんのことも」


 蠱惑的で、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべながら、そっと唇に人差し指を当てた。

 マシュはそう言った口説き文句(のようなもの)を言われたことがない様子で顔を赤くしていた。その姿はさながら初心で、思わずにやけてしまいそうになるリクスだが必死に抑える。

 それに対してミシェ。彼女は全く気付かなかったようで、強いて言うなら名前を呼ばれたので気付いたらしく、疑問符が頭に浮かぶように「どうかしましたか?」と首を傾げている。そんな彼女を“従者”兼“友人”である彼が放っておくはずがなかった。


「おっと、マスター。そういやドクターに呼ばれてたんじゃなかったか?」


「いけない、もうそんな時間でしたか‥」


 はっ、としたミシェは自らの友人に例を述べつつその場に後にしようとしていたその時だ。

 何かが走ってくる足音が食堂に向かってくる。それは余りにも慌ただしいもので、これから何かが起こるのか分かったものではなかった。


「フォーウ!」


 まずは一人目‥いや、一匹目。カルデアのマスコットと言っても過言ではないフォウ君だ。だが、おかしい。あの足音は明らかに彼ではないのだ。人間でなければ出せない足音だ。フォウ君は瞬く間に先程まで会話に入れずにいた立香に飛びついた。


「うわっ!?フォウ君、どうしたんだよ」


 立香は驚いた表情を見せつつ、食堂の入り口をずっと見つめていた。徐々に足音が近くなってくる‥‥‥筈だった。


「あいたっ!」


 シリアスな空気は此処までだ、と言うように聞き慣れた声が入り口から聞こえた。その声を聞いた途端、皆揃って苦笑いをしていた。


「‥いい大人が何してんだか」

 リクスは苦笑い、というよりも若干呆れかえっていたが、どこか懐かしむような顔をしていた。その理由を知る者は、当然ながら一部を除いてこの場には居合わせていない。


「いったたた‥‥転ぶなんて思ってもみなかったなぁ、ってそれどころじゃない!ついさっき、新しい特異点が見つかったんだ!」


 ―――ロマニのその一言で、シリアスな空気は帰って来た。
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