幼き花の誉れ 誉れの花の章
□1章 邪竜百年戦争 オルレアン
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リクスと名乗る少女はミシェに握手を求めた。それに応じようとするミシェだったが彼女の手の甲を見つめた。赤い、タトゥーのような模様に見とれてしまっていた。
「‥どうしたの。そんなに令呪が気になる?」
「あ、いえ、ちょっと、他の人のは初めて見たから」
自分に手の甲にも三つの花弁をかたどったような令呪があるのに気づいたのは立香達が冬木のレイシフトから帰って来た頃だった。どうやら聖杯戦争のみではなく普通にサーヴァントと契約した時でも令呪というものは必ずセットで付いてくるようだ。
「あぁ、そっか。“普通なら”まずないもんね」
「“普通なら”‥‥?」
意味深に発せられたその言葉がとても不思議に思えて仕方がなかった。リクスは「どうかしたの?」と先程のように問いかけて来た。
「‥別に深い意味はないよ。だって普通なら他の人間の令呪を見ることって、聖杯戦争でもない限りないじゃない?」
あぁ、と納得してしまった。確かにそうだ。なんだか妙に探りを入れようとしていた自分が恥ずかしい。
「ねぇ」
「‥はい?」
「‥アンタはさ。怖くないの?」
その言葉がどういう意味か、一瞬分からず固まってしまう。
「親も、友達もいない。そんな状況だよ、普通
なら怖い、とか思わないの?」
‥‥‥確かに、“普通”ならそうだ。
きっと彼女はミシェが“ごく普通の裕福な家庭”で育った年頃の少女だと思っているのだろう。
だが、現実はこうもいかなかった。
「‥本当の両親は、私にもわかりません」
「‥は?」
リクスは面食らったような表情を浮かべていた。恐らく自分が予想した答えとは程遠い答えが返ってきたことによって、今までピクリとも動かなかった表情はついに動いた。
「でも、やっと。友達ならやっとできたから。だから怖くないです」
「‥そう」
ミシェはとても嬉しそうな、やっと安心できたかのような笑顔を見せた。心なしか、リクスもなんだか微笑んでいるような気がした。