幼き花の誉れ 誉れの花の章
□序章 炎上汚染都市 冬木
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「あなたは」
ミシェの前に突如現れた人懐っこい笑みを浮かべた黒髪の青年。彼女も一応は魔術師の卵ではある、一目見て彼が人間ではないことが分かった。
自分はこの感覚を知っている。彼はサーヴァント、英霊だ。
徐々に冷静さを取り戻しつつあるミシェはゆっくり、ゆっくりと脳を回転させていった。
「あぁ、俺?俺は―――」
少し歯切れの悪い返事が聞こえた。その様子を見てミシェは不思議そうな表情をする。青年は「あー‥」と少し申し訳ない表情を浮かべながらミシェの前にしゃがんだ。
「まあ。俺のことはアサシンとでも呼んでくれや、大将」
「‥分かり、ました」
少しだけ不安そうな表情を浮かべたミシェだったが、彼が自分のサーヴァントだと分かったからか表情を戻し、立ち上がる。
「私はミシェル ・アルテミシアと申します。魔術師としては未熟ですがよろしくお願いします」
そして、彼に手を伸ばした。その意味を理解したのかアサシンも彼女の手をとった。
この状況でもサーヴァント・アサシンは人懐っこい笑みを絶やさなかった。それに対して少しだけゾッとしたのはミシェの秘密である。
「それで? 次はどうするの、大将?」
「‥とりあえずモニタールームへ行きましょう。そこになら誰かいると思います」
少しだけ鼻をすすりながらミシェは歩き始める為に右足を踏み出そうとした。が、それはアサシンの手によって遮られてしまう。
「‥何のつもりですか?」
彼の意図が全く読めず、思わず少し不機嫌な表情を浮かべるミシェ。それとは対照的に少しだけ意地悪な顔になる。「少しの間我慢してくれや」、と言いながらその腕は小さなミシェの体を抱えた。
「―――ッ!?」
それはいわゆる「お姫様抱っこ」というものであり、屋敷で暮らしてきたミシェには全く知る由もなかった。だがしかし、彼女は今までまともに肩車も、抱きしめられたこともなかった。
なんだか胸がくすぐったいような感覚がそこにはあった。なんというか、嬉しい、とか、楽しい、という感情とはまた違った何かだ。
「呵呵、どうだい大将」
「お、降ろしてください!」
思わず恥ずかしさで顔が赤くなった。自分でもその熱さが分かってしまう程に、だ。
「だぁめ。大将が怪我しちゃあ大変だろぉ?」
それは確かに正論だ、思わず言葉を詰まらせてしまう。そして静かにアサシンはこういった。
「主は大人しく従者の言うことを聞いてりゃいいんだよぉ」
人懐っこい笑みは何処へやら。ふと見上げるとそこには狂気的な笑顔を浮かべた自分のサーヴァントの姿があった。
なんだかその言葉を聞いた瞬間、今まで熱かった顔が一気に青ざめてしまった。なんだか、まるで、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして。まだ幼いミシェでも理解できた。
‥このサーヴァント、いい人だけど怖い!!